第6話 ゴブリンを率いるもの
燃え盛る村の中を、懸命に走る。辺りには他に、生き物の気配は見られない。
親玉はどこにいるの? まさかもうこの村にはいないなんて事……。
「!!」
その時私の目に、一つだけ焼けていない建物が映った。そしてその前にいる、青紫の肌の巨躯。
「あれは、ゴブリン……? ううん、もしかしたら!」
ゴブリンと特徴は一緒なのにゴブリンらしからぬ体躯。その姿に、私は昔読んだひいおじいちゃまの研究書を思い出す。
魔物には時々、突然変異種が生まれる事があるらしい。突然変異種は通常の個体より高い力と、知性を誇るそうだ。
突然変異種には知性を持つが故に争いを好まず、人と共存しようとするものもいるらしいけど……。残虐性がそのままだった場合は、逆に人間にとって手強い敵となる。
ゴブリンの突然変異種、そう――ホブゴブリン。間違いない。ゴブリン達を率いてるのはあいつだ!
私にまだ気付いてないのか、ホブゴブリンは手にした松明で建物に火を点けようとする。それを止めるべく、私は大声を上げた。
「待ちなさい!」
「……ム?」
ホブゴブリンが、ゆっくりとこっちを振り返る。そして私を視界に入れると、その黄ばんだ目をにんまりと歪めた。
「ニンゲンノ、ムスメカ」
「言葉が解るなら話が早いわ。もうこれ以上、あなたに村は壊させない!」
「イセイノイイムスメダ。ムスメハニクガヤワラカクテウマイ。イイゴチソウニナル」
辿々しい人の言葉でそう言うと、ホブゴブリンは松明を投げ捨てもう片方の手に持っていた石斧を構えた。どうやら私を食べる気みたいだけど、思い通りになんかなってやるもんですか!
「……『我が内に眠る力よ』……」
まだホブゴブリンと距離があるうちに、詠唱を始める。突然変異種に魔法が効かない、なんて話は聞かないから、これで片が付く筈。
――けれど。
「マホウ、ツカワセナイ」
「っ!?」
それより早く、ホブゴブリンが猛スピードでこっちに向かって突進してきた。私は詠唱を中断し、何とかそれを避ける。
ホブゴブリンがそのまま、燃え盛る建物に激突する。すると直撃を受けた壁や柱が吹き飛んで、粉々に砕けた。
「凄いスピードにパワー! 悠長に魔法使ってる暇なんてないって事ね……!」
「フン!」
予想以上の動きに私が舌を巻いていると、炎の中から出てきたホブゴブリンが大きな瓦礫を私に向かって投げ付ける。私はそれを避けるんじゃなく、迎撃する構えを取った。
「はあああっ!!」
気合を込めて、飛んでくる瓦礫に突きを放つ。瓦礫は殴った部分から真っ二つに折れた……けど、そのすぐ後ろにホブゴブリンがいるのを見て私は慌てた。
ホブゴブリンが、石斧を大きく振りかぶる。もう避けられる距離じゃない。私は咄嗟に両腕を頭の上にクロスさせ、自分の体をガードした。
――ガキィン!!
甲高い音と共に、腕に嵌めた小手が石斧の直撃を食い止める。流石ひいおじいちゃまの小手と、安心したのも束の間。
――ブォン!!
直後に聞こえた、風を切る音。そしてお腹を貫く、鈍い衝撃。
「かはっ……!」
息が詰まる。私の体が、軽々と後ろへ吹き飛んでいく。
二度、三度、体が地面をバウンドする度激しい痛みが全身を襲う。どれだけ転がったのか、やっと止まった時には私の全身は打ち身だらけになっていた。
「げほっ、げほっ……ぅ……」
激しく咳き込みながら、何とか立ち上がる。迂闊だった。石斧じゃなくてボディブローの方が、あいつの本命だったんだ。
衝撃を感じた瞬間反射的に後ろに跳んだお陰で、何とか致命傷は避けられた。でなかったら、今頃内臓が破裂してただろう。
「マダタチアガルカ。イキノイイエサハダイスキダ」
勝ちを確信したのか、ホブゴブリンがそう言って舌なめずりをする。……悪いけど、甘いよ。私はまだ、
「……『我が内に眠る力よ』……」
もう一度、ホブゴブリンに向かって構えながら詠唱を始める。ホブゴブリンはそれに気付くと、即座に私に向かって駆け出した。
でも、悪いね。今から唱えるのは、
「ムダダ! ソノヒマハアタエナイ!」
「『爆炎に変わりて……
そして、私は。振り下ろされた石斧に、全力で拳を突き出した。
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