#45 二回戦
『えー、思わぬハプニングが起こってしまいましたが安心して下さい!大会は滞りなく進行致します、次はBブロックの──』
先程の一連の状況に特に詳しい説明がされるわけでもなく、止め処なく湧き上がる観客の不安の声を余所に大会が再開する。
その場に残っていた秋や二ファ、観客や選手もその状況に納得出来なかった。
しかしそれを主張する者は居なかった。
そしてついに秋のいるBブロックの番が回ってくる。
「はぁ……緊張する……」
秋は支給された水を一杯勢いよく飲むと、気持ちを落ち着かせようと自分に言い聞かせた。
そしてその蒸れた顔をそのまま被っている覆面で拭うと、
一応状況に応じて武器を取り替えれる様にする為にだ。
そして一息つくと、おもむろにベンチを立ち他の選手と共に目の前に広がるアリーナへと足を踏み入れるのであった。
司会による各選手の軽い紹介が終わると早速試合が始まる。
Bブロック一回戦は鬼同士による勝負だ、秋の出番は二回戦である為、闘技台の外側で試合をじーっと見つめていた。
「オラァッ!」
「なんのっ!」
鬼同士による激しい雄叫びが飛び交った、その獣のような戦いぶりに圧倒されてしまう。
戦いは見ているのと実際にやってみるのとでは全くの別物と言っていいだろう。
戦いを見ている内に、視線はいつの間にか観客席の方に移っていた。
豆のように小さく見える人、鬼、魔物達……ある筈が無いのに、まるで自分を見ているのではないかという妄想に駆られてしまう。
思い込みだと理解しているのだけど、そのイメージを振り払うことはできなかった。
そういった風におぼろげに意識を漂わせていると、いつの間にか鬼同士の戦いには決着がついていた。
────!
──────!
司会者や観客達の声も、なぜかよく聞き取れなかった。
ハッと意識を戻すと隣には係員がいた。
「出番ですよ」
「あれ、もうですか?」
「早く行ってください」
「わかりました……」
促される通りに、彼の指差す闘技台へと上がっていく。
辺りは石材の破片が無造作に転がっていて、一部地割れのような激しい戦いの跡が出来ている。それを踏んで足を嵌めないように慎重に歩いて進む。
相手と対極の場所に位置すると、ゆっくりと歩み寄り握手を交わした。
相手は鬼であり、如何なる油断も禁物、全力でかからないとすぐにでもやられてしまうだろう。
「よろしくお願いします」
「おう!よろしく頼むぞ!」
覆面を整え軽い挨拶をすると、元の位置へと戻った。
相手の武器は……何だ?
腰にホルスターらしき物──嘘だ、まさか銃だっていうのか!?
聞いていない!
この世界に銃器があるなんて初耳だ……。
「その腰の武器、珍しいですね」
「おう、ようこれが武器だってわかったな!」
「はは……使い方は”火薬を用いて弾丸を発射し獲物を仕留める”といったところですか?」
「んん?弾丸?それはよく分からんが、この武器がまた強力だと!握るだけで相手を消せるらしいんじゃ!」
確定だ、あれは銃だ。多分大きさ的に一般的な拳銃。
いや流石に無理!相手の対処のためにいろんな武器を持ってきたって言うのに、銃弾はどうにかできるものじゃない!
剣で弾く?軌道をずらす?ありえない、そんなのアクション映画とかの世界だけだ。理論上では可能かもしれないけど、力不足すぎる。
そもそもどこで仕入れた?
とても使い慣れているようには見えない。
なんで事前にこの選手をマークしていなかったんだ……。
「そんじゃ、いくぞぉっ!」
「えぇっ!?」
──いつの間に試合が始まっていた!?
まずい、とにかく避けなきゃ!
バァン!
圧迫され加速された弾丸が耳を裂くような
しかしその弾道は秋には掠りもせずに、空を掻き分け明後日の方向へと向かっていった。結果弾丸はアリーナの壁にめり込む事になった。
「うわぁ……」
その速度、威力からして鬼の持っている銃は確実には殺傷力があると秋は理解する。
そしてその銃を不思議そうに眺める鬼に対して、一つの答えが出る。
まさか初めて扱っている……?
もしそれが本当だろするなら、勝機はあるんじゃないか?
行けるか?
かなり危険かもしれないけど、銃が扱えないなら接近できるかもしれない!
──なんて考えは甘かった。
相手は鬼だ、武器だけが強さじゃない。
「あぁ、もうめんどいわ!普通に戦ったほうがいいやろ!」
「結局最終的にそうなるんですか!?」
デジャヴだ、一回戦のおじいさんも結局こんな感じで……鬼ってみんな同じ様な性格なのか!?
いやそんなことよりも、このままじゃ負ける!
「うおおぉぉぉぉぉっ!」
「うわあぁぁぁぁぁぁっ!」
まさしく鬼の形相で向かってくる相手、地面を鳴らし刻々と迫ってくる。
猶予はない。
逃げるしかない!
しかし体格に差がありすぎるせいで、歩幅も当然違うわけであって、逃げる間も無く秋は鬼に捕まってしまった。
手の中に握るように捕らえられた秋はもがき抜け出そうとするが鬼の握力はそれを許さない。
「はははっ!鬼の力はどうじゃ!逆らえんだろう!」
「うっ……」
結局最後はこうじゃないか、勝負をしてまともに勝った試しがない、このまま負けるのか……。
鬼の力により体が圧迫される。
骨が折れるほどではないが、かなり強烈なもので、じわじわと体力を絞られていく。
そんな状態が続くこと数分、ついに秋の意識は途切れる。
目が覚めた時に聞こえたのは、試合終了の合図だった。
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