#44 突然
「やるじゃないか、あんた!」
「へへっ、おめぇさんもなぁ!」
ガキン!
金属の弾き合う音が幾重にも重なり、会場内に木霊する。
Aブロック第一試合、戦っているのはマーマンのネーラと、ソウドと言う鬼であった。
ネーラは、杖を使った巧みな技で相手の攻撃を受け流したり、また反撃したりと翻弄しソウドのペースを崩している。
ソウドは、鬼特有のその圧倒的火力でネールを滅さんとして力任せに黄金に輝く金棒を振り回していた。
互いに劣らず、抜きん出ず、互角の勝負であると言えるだろう。
「そいやぁ!」
正面、ソウドは全力を以てして渾身の一振をネーラへと叩き込んだ。
「よっと!容赦ないがそういうの嫌いじゃないぜ!」
「はっはー!やりおるのう!」
「だろ!マーマンも伊達じゃないんだぜ!」
ソウドの棍棒が闘技台へと突き刺さっている。
反撃の機会を逃してなるものか、とネーラはすかさず相手のクールタイムを狙うと、的確に反撃にでた。
早く。
そして強く。
急所の一撃を!
杖が打撃音を鳴らし、ダメージを与えた。
「ぬ゛おぉぉぉぉうっ!?」
ソウドからこの世のものとは思えぬ様な醜い嗚咽が漏れだす。
それを見たネーラは「あ、やべ」と思わず目を伏せた。
「ぬっ……ぁああぁっ!」
ソウドの苦悶の声と共に、観客席からは悲鳴の嵐、それは主に男性陣から発せられたものであった。
「やっ!やー、すまねぇ!そこに当てるつもりはなかったんだ!ホントだぜ!?」
「す……すまんで…済ん…だら……」
なにかを言い残すようにガクッ、と項垂れ泡を吐く。
その様子をジャッジしていた審判は、決着を確認すると旗を上げた。
『Aブロック第一試合の勝者は、ネーラ・オルディスだ!』
そう審判は、自身の股の間を抑えながら、青ざめた顔で判断をしたのであった。
***
『続いてはAブロック、第二試合は鬼同士の戦いであった。
互いに武器は剣であり、数分に渡る激しい競り合いが行われた後、何故か相撲に発展して結果土俵(?)から相手を落とした形で決着が着いたのであった。
勝者は青鬼のオールであった。他の男の鬼よりも一回り小さく、彼は所謂普通の人間サイズなのだが、その内に秘める力はその体格からは想像できないほどであった。』
……っと、これでメモは完了にゃ。にしてもなかなかこういう戦いも楽しめるものだにゃ」
二ファは、スクープが無いという事もあり途中で調査をあきらめると、購買で買ったフードを片手に、戦いの記録をしているのであった。
***
『さぁ!Aブロック最終戦!勝ち抜いたのは、〈ゴールデンボール・ブレイカー〉のネーラ選手と、〈ドスコイ・キング〉のオール選手だァァァ!Aブロック最強の名を冠するのは、どちらなのかぁぁぁぁ!?』
ドワッハッハ……!と、観客席で笑いの渦ができる。
そんな司会の紹介が入ると同時に、ネーラは荒声を上げる。
「勝手に命名するなよ!というかさっきのは事故だって言ってるだろ!」
否定しようと主張するが、それを聴くものは残念ながらいなかった。
そこに歩み寄った青鬼のオールは、ネーラの方をポンと軽く叩くと、優しい声色でこう言った。
「ネールくんといったか、大変だな君も」
「あ、あんた……!」
「と言うのも何だが、俺のボールを破壊するのは流石にやめてもらえないか」
「だからちげーっての!ああもう全員敵なんだな!?やってやるよ!」
若干ヤケ口調でそう言うと、ネーラとオールは宣戦の握手をかわし、それぞれの持ち場へとつく。
審判の厳正なチェックが入ると、同時に両旗があげられる。
『それでは、Aブロック最終試合、開始だっ!』
「「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」」
開戦の合図とともに、両者躊躇なく飛びかかった。
「燃えるぜ、干からびるほどに!やっぱり戦いは全力が一番だぜ!」
「奇遇だ!俺もそう思っていたところだよ!」
燃えるほどに熱い情熱が、ぶつかり合って会場内に旋風を巻き起こした。二人の熱気に包まれ、観客たちはヒートアップしていく。
声援を通り越した、雄叫びがあちこちから聞こえる。今一体になっているのだ、この場は。
1人を除いては。
「戦いにここまで熱くなれるって、すごいなぁ……」
秋はそう呟くと、ぬるい視線で戦いを見届ける。
もちろん応援していない訳では無いのだが、何せ闘技場という存在が彼にとってはイレギュラーなのだから、楽しむというよりはむしろ緊張する心の方が勝っているという感じである。
それでも戦いになにかを見いだせるのではと、熱心に観察をしていた。実際は戦っている本人達の頭が空っぽなものなので、無駄に分析しようとするだけ無駄なのだが。
「待ってたぜ、こういう戦い!今最高に楽しんでる!」
「それはよかったよ!私も訛っていたもので、ね!ふんっ!」
金属の擦れ合う音、鉄のような不思議な匂い、身を焦がす熱気にドラムのように激しい鼓動、すべてが満ち足りたこの空間で、全力で力をぶつけ合う。
「まだこれでAブロック最終決戦って、決勝とかになったらどうなっちゃうんですかね……」
考えるのは諦めて、純粋に試合を見ることにした秋だが、それは彼にとって難しい事のようだ。
「それでも、すごい戦いだってのは何となく感じるかな。あー、胃がキリキリする……」
そんな心情などお構い無しにとやがて戦いは苛烈を極める。尚、二人の体力は有り余っており、終わりを感じさせることは無かった。
しかし、突然その時はやってくるものだ。
オールの呼吸が荒くなり、脚がふらつき、身体がよろめいた。
「うっ…ぐぅ……!」
「おいおいどうした?限界なのか?まだまだこれからだって言うのに」
そう煽るようにネーラは追い立てるが、攻撃してくる様子はない。
「マジか?本当に戦えないっていうんじゃないだろうな」
「く……ふふっ。いや、なかなか楽しめた」
「ちょ……!」
バタン……
一瞬にして、決着の時が来た。
オールは地に伏せるようにして倒れ込むと、顔のある場所から血が滲み流れた。
そしてその咄嗟の状況に対して、ネーラは近くの係員に対して命令した。
「今すぐ病院に連れていく!担架を持ってこい!」
「は、はい!」
そして、彼は、倒れたオールに手を当て、瞬時に様態を確認する。
「脈は正常だな、呼吸も滞りない、しまったな……こりゃ回復魔法でどうにかできるもんじゃないぞ」
すぐさまに判断すると、ネーラは闘技台を飛び降りて、控えにいる秋の元へ向かう。
そして伝える。
「すまねぇな秋!俺はあいつを病院に送って様子を見る、お前は頑張れ!一人でもなんとかなるだろ!じゃあな!行ってくる!」
「えっ!あ、あぁ……はい!わかりました!」
それを伝えると、ネーラはすぐさま闘技台へと上り、他の係員たちと共に鬼を連れ出すよのであった。
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