#42 最終日
そして大会最終日。
色々あったがとりあえず予選16位まで入る事が出来た。それもBブロックには鬼以外の魔物が多かったというのが大きかった。
三次予選でぶつかった相手は、スライムだった。スライムはかなり厄介な魔物で、体内の中心に匿っているコアを攻撃しないとダメージが入らない。
物理攻撃も、ブヨブヨとしたその粘着質な体に絡め取られ無効化される上に最悪武器、体ごと持っていかれる。体を持っていかれた場合こちらが降参するまでスライムに閉じ込められるというものだ。もし足掻いた場合最悪窒息死というものである。
そして魔法は、一部の属性しか効かない。例えば有効属性は氷なのだけれど、今大会では魔法の使用が禁止されている。なので相手に弱点は無いということになる。
スライムの全神経を司るコアは中枢にあるのでコアを何らかの方法で攻撃すればいいと思うが、これもダメだ。
何故なら、スライムはコアを吐き出す事ができるという能力を有しており、体内に相手を取り込むとコアを取られないようスライムの外に吐き出せる。ましてや勝負は一体一なので自身がやられたら終わりだ。
あくまでも本体はスライム状の身体ではなく、それを遠隔で操作できるコアに意識があることがかなり厄介なのである。
ではどうやって勝ったのか。それは単純だ。
今大会のルールとして「体の一部が場外の地面に着いたら敗北する」というものがある。
スライムの法則として、その強さはスライムの体積、質量に依存する。
つまりどういうことかと言うと、「大きければ大きいほど強く、小さければ小さいほど弱い」というものだ。つまり分離させ弱いスライムを作ればいい。
これに関しては上手くいくかは不安だが何とかなった。
まず、借りた武器を持つ。両方とも剣だ。
わざとスライムに近付いて、片方の剣で斬りかかると、当然相手はそれを取り込もうと剣に絡み付いてくる。そこが狙い目だ。
スライムの絡んだ剣を勢いよく引き抜こうとすると同時に、離すまいと向こうも力を入れるので結果スライムが粘液の様に伸びる、そして繋がりが薄い所をもう片方の剣で切る。
するとスライムの絡んだ剣が手に入るので、それを外に投げるというものだ。結果スライムの一部が場外に落ちて失格となる。
側から見たら滑稽な戦法かも知れないが、勝てればなんでもいいということでこうなった。
四次予選でぶつかった相手は人間だった。
釈然としないのがこの試合はかなり卑怯な手で勝ったということ。計画は二ファさんだったのだが、予想以上の効果だったらしい。
その人の行動をチェックした後に、僕のあらぬ噂を流したのだそうだ。「裏でかなりひどいことをやっている」とか、「もし負けたら復讐をしに来る」、「盗賊団グループの頭領」だとか、そんな沽券に関わる噂を流しまくった結果向こうから試合前に降参の申し出をしてきた。
正直僕もそんなことは聞かされてはいなかったので、かなり驚いた。本当に悪いことをしてしまったと思っている。
二ファには説教をしたが正直僕が勝てたかと言ったら必ずしもそう言えるわけがなく、少し自分に情けなさを覚えてしまった。そんなのいつものことと言われれば否定できないのだけど。
そうしてなんとか勝ち抜きついに大会最終日、予選突破を果たした選手達の激戦区、本戦へと入る。
今日に限り選手は特別な控え席へと招待される。野球で言う選手ベンチのような場所だ。そこで間近にそれぞれの試合を見る事になるのだ。
当然試合以外での他選手の明らかな暴行は禁止、賄賂は一部見逃されていたりするようだが、だとしてもまずおかしいと思ったのが昨日のマッツの行動が問題視されていないこと。あの後にファと一緒に一部始終を運営に報告したのだが、まるで取り合ってもらえなかった。これは明らかに不自然なことである。
僕たちの他にももう一人係員が見ていたはずだ、運営部への何かしらの圧力?洗脳?それはあり得ないか……。とにかくマッツがそういった理由で出場権を剥奪されることがなかったのだ。どう考えてもこれは明らかに裏で何か起こっているとしか考えられないが、何が起きているのかは考えられない。
控え席でネルさんと他の選手について話す。流石にここまで来たら姑息な手は通用しないと分かりきっているので、それに対しての対策だ。
「んーで、アキよ。どうするか」
「もちろん正攻法で行きたいですけど……」
「そうだなー、最低お前は3回勝たなきゃならないんだ。俺を含めると2回だが、俺が勝てる保証はないってことを忘れちゃいけないぜ?」
「はい」
マッツと戦うには、ベスト2に残ることが条件だ。
最終日、選手は16名、各ブロックでそれぞれ四人。ブロック内で行われる二回の戦いを勝ち抜いたら、遂に別ブロックとの戦いになる。いわゆる準決勝でAB.CDブロック代表の戦いだ。
それを勝ち抜いたら決勝戦になる。
Aブロックにネルさんがいて、Bブロックには僕。
Cブロックにはマッツがいて、Dブロックには……一応剛鬼という選手がいる。
取り敢えずマッツの決勝進出は確定的と言っていいだろう、その強さは身をもって思い知らされているのだから。
なら僕はどうするか、勝つしかないんだ。そう、勝たなきゃいけないんだ。相手が誰でも最終的には戦うし、勝たなくちゃいけない。
策はない、ぶっつけ本番の勝負だ。
さぁ、ここからの戦い、気を入れなくちゃ。
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