#18 リリア

「アキ、ヒーラギ!外の世界、どんなとこだ?」

「え?」

「外の世界はね、うーん。楽しい!」

「抽象的すぎです……と言っても、僕からも言える事はありませんね。言葉で伝えるのは結構難しいかも」

「なるほど、つまり、わからない!」


 リリアータ……ゴブリン族の少女は、数日前に僕達の仲間?になった。

 マグルさんが無理やり、集落から連れ去った子なのだけど、彼女はこの状況にすっかり適応して、楽しんでいるようだ。

 彼女は、親もいなかったようで、族長の所の養子だったらしい。


「ゴブリン、引きこもり。外の世界、嫌い。だからあたし、見たかった。マグル、感謝してる」


 排他的な集落から出たことのない彼女は、外の世界にとても興味津々なようだ。

 僕たちが、マグルさんの修行を終えたら一緒に中央大陸へと戻り、一緒に暮らせとマグルさんから言われている。

 それも、過酷な環境下で育った彼女の方が僕たちよりも強いらしく、そして小さいから護衛として信用できる、と。

 自分達よりも小さい子をお守りにつけるって……。


 あの人の考えることは、まるで意味が分からないけど。まあリリア自体も喜んでるなら、いいのかな。いいのかな?


 それに、なんというか。癒される。

 やかましい柊とは違って、純粋な無垢さというか。まるでもっと小さい妹ができたみたいだ。柊もリリアちゃんとこの子を可愛がってる。


「おい、休憩はそこまでだ。そうだな……おいリリアータ。お前の武器はなんだ?」

「武器?えっと、多分、弓。使ったの、それだけ」

「弓か。魔法の属性は?」

「土。あと強化」

土属性ストーン力魔法パワーか」


 へぇ、初めて聞く魔法だ。

 土属性ストーンは他の冒険者が使っているのを見たことがあるけど、力魔法パワーって言うのは初耳だ。


「ねえ師匠!力魔法パワーって言うのは?」

「MPを消費することで、筋力、防御力、跳躍力などを強化する魔法だ。詠唱いらずで強力だが、欠点を挙げるとするならばMPの消費が多いことと、体が疲れたりする事だろうな」

「限界値は設定されてるんですか?」

「ああ。どんなにMPを積んでも、最終的な限界はあるな」

「なるほど」


 そう言えば、受付嬢のグラニアさんなんかは浮遊魔法を使ってたっけ。確かあれ、無詠唱ができる魔法だったはず。

 属性以外の魔法は、詠唱が無いのかもしれない。

 中央大陸に戻ったら図書館で調べようかな。


「よし、ならば一応そこらの魔物と戦わせてみよう。弓だ、持っていけ」

「ありがと。マグル、何、狩ればいい?」

「クラッシュマンモスでいいだろう。秋、柊も見てるんだぞ」

「一人で戦わせるの?」

「大丈夫ですか?やっと僕たちでも倒せるようになったばかりなのに」

「心配は、不要。やってみせろ」

「任された!あたし、行ってくる」


 リリアの戦闘って、多分見た事なかったしいい機会かもしれない。

 でも、本当にあんな子が倒せるのだろうか。信じてないわけじゃないけど、疑いたくもなる。



**********



「さー!こい!牙豚マンモス野郎!」


 弓を持ったリリアータは、クラッシュマンモスの前に立ちはだかる。

 最初に柊が戦ったのもこの魔物だった、高い攻撃力に、巨大な体。その大きな尖った牙が最大の武器。


「よし!こっちから、いく!」


 マンモスに向けて、リリアータは弓を引き……放つ。

 その狙いは正確で、矢はマンモスの顔に刺さった。


「ブォオォゥッ!」


 マンモスが、怒り、リリアータに突進を仕掛ける。

 

「ジャンプ!」


 リリアータは力魔法パワーを使い、足を強化。

 高く飛び上がり、マンモスを躱した。


 そして、マンモスの上に乗っかる。


「ブアァァッ!」


 振り落とそうと、体を揺らすがリリアータは毛をがっしりと掴み離れない。

 そして、矢筒から矢を取り出すとそれを振り上げる。


土魔法ストーン!」


 矢尻の部分に、さらに大きく、尖った石が集まる。

 そしてその鋭利な矢を力魔法パワーで勢いよく振り下ろした。


「!?ブアァォォォォ!」


 矢が、マンモスの背中へとグサリと刺さる。

 リリアータは容赦なく、それをねじ込み、先程のように強化された矢を何本も突き刺していった。


「これで、終わり!」


 十分に痛めつけたところで、力魔法パワーを使い、重心を傾けるようにしてマンモスを蹴る。

 そして背中から飛び、地面へと着地した。


「ブオォ──」


ズシン………


 マンモスは傾き、地面に倒れこむ。

 横向きになって、起き上がろうとしても刺さった矢の痛みで動こうにも動けない。


「多分、勝った。後は、出血で、死ぬ!」



**********



「やるじゃないか。これなら秋と柊を任せられるな」

「なんていうか。凄く野生って感じでしたね」

「容赦なかったよね!強かったなー」

「へへ!あたし、褒められた、ありがとう!でも、MP、もうない」


 かなりワイルドな戦い方で、マンモスを倒したリリア。

 流石にあんなの見せられたら僕たちも認めるしかないっていうか──。


「負けてられないな、秋も柊も。もうそろそろでレベル30だ!今日も狩に行ってこい!」

「そうですね、じゃあ行ってきます」

「おにぃより倒すんだから!」

「そんな対抗意識持たれても……はぁ」



 そんなこんなで、その日の狩りが終わった頃には、既にレベルは28になっていた。

 最近やっていなかった能力解放をすることにした。

 さて、どんな能力が手に入るか。


 16,20,24,28で四レベルずつ。合計で得られる能力は四つのはず。

 出来れば魔法が入ってくれると嬉しいのだが……。



<ナカムラ アキ>=能力解放=

*魔力節約(ABILITY)

消費MPが3/2になる

*火属性無効(ABILITTY)

受ける火属性ファイア攻撃が無効

*クナイ術(SKILL)

MPを使用する程、クナイの攻撃力が増す

*投擲(ABILITY)

投擲武器の飛距離上昇


<ナカムラ ヒイラギ>=能力解放=

*筋力強化(ABILITY)

攻撃力の上昇

*火属性無効(ABILITY)

受ける火属性ファイア攻撃が無効

*跳躍強化(ABILITY)

ジャンプ力の上昇

*斬撃波(SKILL)

体力を消費して、斬撃の波動を飛ばす



 解放が終わった所に丁度、マグルさんが来た。

 僕と柊の能力を見比べているようである。


「ふむ、二人とも20レベルで火属性無効か。これは遺伝かも知れんな」

「遺伝?」

「なるほどー?」

「因みに無効系の能力は属性、そして状態異常にそれぞれ一つしかつかない」


 なるほど、確かに相手に全属性無効とかがいたら困る。

 それじゃあ僕は、腐敗化無効と火属性無効で終わって、これ以上の無効化能力は獲得できないということなのだろう。柊はまだ状態異常の方が残ってる。


「あれ?アビリティ『筋力強化』って、前にもあったよね?」

「ああ。一部アビリティは被りもあるな、だが積み重なる分だけ強力になる。『筋力強化』が今の柊に7個くらいあれば、俺は攻撃力で負けるだろうな」

「ええ?師匠って強いよね」

「レベル差の問題だ。……まあ、それでも素早さに関しては最強だと自負してもいいと思っている。それと雷魔法も、極めている」

「ああ、雷落としてましたよね」

「うむ。まあ、特に目立ったスキルやアビリティは無いな。珍しいと言えば秋の『収納術ストレージ』と柊の『加速』くらいか」


 結構強い能力もあると思ってたけど、これでも一般的なのだろうか。

 逆にマグルさんはすばやさ系統のスキルを積みまくってそうだなぁ……アサシンを選んでいるのも職業関係なしに、速さの為らしいし。


「もう寝ろ。もう少しで30レベルだ。お前たちの修行が終わったら俺はまた旅に出る」

「分かりました」


 そうか、少しの間だったけどもうすぐでお別れか。

 悲しいはないけど、少しの寂しさくらいは感じる。


「うー。ある・おーれ。どるー……」

「リリアちゃん、すごい寝言だね」

「これもゴブリン語かな。理解できないですねやっぱり」

「よし、じゃあもう寝よ」

「はい。おやすみ柊。また明日」

「おやすみー!」


 さて、修行が終わったら何をしようか。

 異世界観光、お金稼ぎ、他にも色々。

 リリアも一緒に来るし、まずは冒険者ギルドに行こうかな……


 そんなことを考えながら、秋の意識はだんだんとおぼろげに沈んでいった。

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