#17 マグルの怒り
「先程ぶりだな、族長」
ダンジョンを攻略(?)した僕たちは、ゴブリンの族長の所に話をする為、集落に戻ってきた。
どうやらマグルさんも族長と話したい事があるみたいだ。
族長の家に向かうと、翻訳係の少女が僕たちを出迎える。
そして中へと通されるのだった。
「アゴータ・ラバタ」(帰って来たか、客人)
「……」
「ルア?」(どうした?)
「……もういい、単調直入に聞く」
「ア?」
「ダンジョンにトラップを仕掛けたのはお前達だな。雑魚め、このハゲ頭。どうなんだ、お前自体、標準語は喋れるのだろう?」
マグルさんは一体何を言ってるんだ?挑発して……。
「いきなり失礼じゃないですか。確信があって──」
「確信など無い、全て俺の勘によるものだ。どうなのだ、嘘をついてる事などアサシンの俺なら一発で見抜けるぞ」
「えぇ」
「……ニンゲン、オマエ、ナニモノダ!」
「えぇ!?族長さん、喋れたの!?」
「予想通りだな、大方『人類・魔物共生法』のせいで直接殺せない、或いは俺の強さでは自分達では太刀打ち出来ないから、俺達をダンジョンに誘い込んだ。違うか?」
「……フン!ソウダ、オマエ、ダンジョンハイラナイ、オドロイタ。デモ、コドモ、コロセルオモッタ」
何だって……。
ダンジョンで殺すつもりで誘導していたのか。じゃあ宝の話も嘘で──最悪あのダンジョン自体ゴブリンが作った可能性もあるって事だ。
「躊躇なく話すな、むしろ潔いのか……それとも俺様に盾突けないただのチキンか」
「ナニ!?ヒキサガレバ、コノ!コロス!」
「ちょ!」
「待ってよ!」
「ぬるい!
ドオオォォォォォン──!
……
荒々しい音と共に屋根を突き破り、怒りの
「ナッ──!」
僕も柊も、耳を塞ぐ。鼓膜が破れそうになりそうだ。
そして感じた。彼の異常な程の殺気を。
この場にいる者、いや。集落の全体のゴブリンがそれを肌で感じ、恐怖する。
彼、マグルは怒っている様に見えた。
武器だけではない、彼はその雷を全身に纏い、全身で憤激を伝えている。
「マ、マグルさん……?」
「師匠。ど、どうしたの、そんなに怒って」
その場にいた全員が、
族長に至っては、先程の襲い掛かろうとした威勢はどこへ行ったのか。槍を投げ捨てて、床に手をつき、情けなく後退りしている。
今にも叫びたい気持ちを抑えているが、なおだらしなく目から顎へと、水滴が垂れる。
明らかに雰囲気が違う。
秋も、柊も、マグルがここまで興奮しているのを見たことがなかった。
また彼がどうしてそこまで怒るのか、理解ができなかった。
確かに、ゴブリンが兄妹を嵌めたことは事実だが、それでもそこまでする必要があるのか、と。むしろ相手が可哀想に思えるほどだった。
そして、その数秒後。
ピリピリとした空気は依然として消えないが、彼を纏っていた雷は無くなり。マグルは小刀を懐にしまった。
そして話し始める。
「俺様をここまで怒らせたのは。お前が久しぶりだ。俺の弟子……子供達を陥れようとした。それだけで街一つは滅ぼせる。今の怒りなど、微々たるものだと知れ!」
「ハッ、ハイ!スマナカッタ!ユルシテクレ!」
ゴブリンの族長は、逆らえない相手だと全身で理解し、そして頭を下げた。
彼の人生の中で、ここまで心が揺さ振られる出来事はこれが初めてだ。
「雑魚めが。……償え」
「ナ、ナニヲダ!?」
「そうだな。生贄を、一人貰おうか。少女なら好ましい」
「ソ、ソンナコト──」
「師匠ロリコンなの!?」
「見損ないました」
「ぐはっ!?ち、ちがう!違うからな!……もし断れば、この集落は滅びる」
「ヒッ!……ワ、ワカッタ」
族長は、隣の翻訳の少女をチラリと見ると一言。
「オ、オマエガイケ」
「そんな!あたしか!?」
「ゼンイン、タスカル。イケ!!」
「うっ……。わかった」
少女は、立ち上がり、ビクビクと怯えながらこちらに一歩、一歩と近づいた。
「コレデ、イイカ!」
「ふむ、良かろう。……命拾いしたな、そして約束だ。これを守らなければ滅ぼす」
「コレイジョウ!?ナンテ、アクマメ……!」
「今後は俺たちの見えない所で狩りをしろ。そして一生干渉するな。それだけだ……おい、秋、柊!行くぞ!もう話は済んだ、出るぞ」
「え!?わ、わかりました」
「怖いよ師匠……」
一体全体何だったのか、僕達はわからないまま、ゴブリンの集落を後にして戻るのだった。
**********
そして、小屋に到着。中に入ると、ゴブリンの少女を連れてマグルさんは座る。
僕たちも座り、ビクビクしながら話を聞いた。
「みっともなく、怒ってすまなかったな。怖かっただろう」
「い、いえ。……でも何故あんなにも」
「すごい怒ってたよねー」
「いや、弟子が危険な目に遭うところだったんだ。あれくらいは怒るさ」
「そんな怒り方じゃなかった気がしますが……まあ、僕たちの為だったんですか?ええと、ありがとうございます」
そして聞きたいことが一つ。
「あの。そのゴブリンの少女は」
「ああ、生贄か」
「一体どうするつもりなの!?」
ゴブリンの少女は怯えている。ここの誰とも目を合わせず、小刻みに震えている。
きっと泣いているのだろうという事は、誰にでも分かった。
いったい何故そんな事をしたのか。
償いなら、食料とか他の物でも良かったはずだ。それなのに何故。
「この子はお前たちと一緒に育てる」
「え!?」
「やっぱりロリコ──」
「違う!……おいゴブリンのお前。別に何もしない、安心しろ」
その言葉に、少女は少しだけ顔を上げ、マグルの方を見る。
その言葉は、僕たちでも信用できないのだが、少女はそれを信じた様だ。
「ほ、本当か?」
「本当だ。……ゴブリンの一族は、排他的で独自の文化を持って生活をする」
「それが何か?」
「本来、標準語を使うのは族長となる者だけだ。この子が次期族長だとしても、標準語を覚えるのには早すぎる。何よりゴブリンは標準語を汚れの言葉とし、独自の言葉でしか基本話さない」
「ええっと、もう少し分かり易くお願いします」
「ゴブリンよ、お前は外の世界に興味があったのではないか?俺の見た中でもお前が一番上手に標準語を使っていた。その言葉を嫌がるわけでも無くな」
「う、うん。そうだ、あたし、自分で、覚えた」
それは分かったが、それが生贄に同関係しているのかが分からない。
「お前は、外の世界を見たくないか?ゴブリンよ」
「え?……み、見たい!」
「ならばこの二人に着いてやってくれないか。あそこのゴブリン族のレベルなら、俺が居なくても二人を守れる」
「それだけで、いいの?」
「ちょっと、もしかして僕たちと旅させるつもりですか!」
「危険じゃないの?」
色々話が飛躍していても付いていけない。
これはもう、理論とかそういうのじゃなくて、デタラメだ。
「大丈夫だ、見た目は幼くとも、魔物としての戦闘力はある。俺の目利きだ、間違いはない。ゴブリン、戦闘に自信はあるか?」
「マンモス、とかは、倒せる……」
「えっ、強い」
「私より強いよ!」
こんな、小さな子が?
流石暗黒大陸と、言った方がいいのか……。
「決まりだな。ゴブリンよ、名はなんだ」
「名前?ダラヴィデートグラフリート……。標準語だと、リリアータ、だと、思う」
「なるほどな。宜しく頼む、リリアータ。これよりお前を二人の専属の護衛に任命する!」
「なんと言いますか」
「複雑だよねー」
「あたし、任された!頑張るぞ、ごえい!」
結局、ゴブリン達が僕たちに罠を仕掛けた理由もハッキリ分かってないし。
マグルさんは何故か、生贄にゴブリンの少女を連れてくるし。
何より、本人のゴブリンがその状況に順応してるのがなんとも……。
本当に大丈夫なのかな、こんな調子で……ちょっと心配になってくる。
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