やり直しTS少女が元親友に惚れられる話

@Youtaiutyou

第1話

私、黒髪ショート低身長まな板系美少女浅井凛には前世の記憶がある。

いや、前世と言うには少し語弊があるかもしれない、正しくは十八歳までの記憶が自分の記憶が既にあるのだ、しかもその記憶の最期では私、いや俺は死亡していた。

原因ははっきりと覚えている。夏も真っ盛りの七月十九日の五時、鳴り始めた鐘の音をバックに友人を上から降ってくる鉄骨から庇い圧死、多分即死だっただろう。浅井凛(十六歳男子高校生)は不幸にもその時絶命してしまいました、アーメン。

だが、なぜか俺の意識は存在している。花の十五歳の女子高生として!

自分に浅井凛として過ごした十六年間の記憶があることに気づいたのは五歳の頃だった。性別が変わったことに最初は戸惑ったりしたが、それまでの五年分の記憶があったから何とかなった。それに女の子になってチヤホヤされてみたい!なんてことも思ってたしな!そんなこんなでその時の俺は……まぁ調子に乗った。

そりゃあそうだろう、高校生までの記憶があるんだ、勉強しなくても大丈夫、余裕だ!なんて思ってた、実際に小学校までは勉強なんてする必要もなかった。

しかし、十で神童 十五で才子 二十過ぎればただの人とはよく言ったものだ、中学三年でついに数え十年以上勉強してこなかったツケが回った。その結果前世と同じ高校に進学、もっと勉強してればよかったという思いと、ズルしちゃいけないよなぁと言う思いが残る結果になった。まぁ後悔はしていない。

ただ、女子として育つことは少し大変だった。勿論紳士だった俺がクラスの他の幼女達に対して興奮したりすることは無かった。ホントだぞ?ちょっと背徳的な気分になっただけだ。

ただ、男子共には苦しめられた。自分で言うのもなんだが女になった俺はかなり可愛い。クラスで一番可愛いのはだれ?って、聞かれたら俺を見るくらい。中身は一番可愛いくないのにな!そんな可愛い女子に向かってどうやら男子共は興味を持ってほしくてイタズラをしていた。野郎になんて興味ねぇよ!ただ、なくしたと思ってたリコーダーが三日後に帰ってきた時は恐怖を感じて買い替えたが。ちょっと高度すぎないかねぇ?

そして高学年になると色づき始めたやつは我先にと告白してきた……野郎になんて(ry




さて、ここまでの自分の経歴を振り返った上で現状を見てみよう、高校が始まり二週間、下駄箱に手紙の超古典的スタイルで屋上に呼び出されたので告白されると思いお断りの言葉を考えながら行ってみたら、そこには前世で仲の良かった友人、鉄骨から俺がかばった男こと遠藤大輔の姿……ファッ!?

ちょっと待て、俺は女にしか興味が無い、たとえ遠藤がしっかり見るとイケメンで十五年分の女子の部分がキュンキュンしそうになっても俺は女子が好きだ。落ち着け、素数を数えるんだ。1.2.3.5…あれ?1って素数だっけ?なんて焦ってると奴はいきなり

「浅井さん付き合ってください!」


フヮイ?待て待て待て待て。いや、こうなるとは思っていたが、呼び出された時点でカツアゲor告白だとは分かっていたが、お前にはされたくねぇよ……

「一目惚れでした!」

混乱する俺を他所に話を続ける遠藤。

「そう…ですか。ちなみに私のどんなところが好きになったんですか?」

そんな状態の俺が何とか受け答えが出来たことは褒めて欲しい。ただ、

「勿論見た目です!」

この一言で完全に俺の脳の情報処理能力が追い付かなくなった。そこでフラッシュバックするのはまだ俺が男子高校生だった頃の記憶。




「だいすけーお前どんな女子がタイプなんだ?」

「いきなり何だよ浅井!?……そうだなーやっぱり黒髪ショートの貧乳低身長かな?」

「ちょっと夢見すぎなんじゃないか?……まぁ応援してるぞ!さぁ液晶画面に向かって愛を囁く準備はいいか?Are you ready?」

「ダメです!」

~以下他愛ない会話が続く〜




ここで今一度自分の見た目を振り返ってみよう。「黒髪ショート低身長まな板系美少女」完全に一致!!なんだこれはたまげたなぁ。

なんて現実逃避していても仕方ない、俺はNoと言えるタイプの日本人だ、すぐにキッパリとお断りの言葉を言おう。

「すいません、私まだ恋愛とかそういうのは考えてないんです。」

よし!言えた!俺はNoと言えるタイプの日本人だからな!当然d

「ならお友達から!」

「はっ、はい!」

国民性には勝てなかったよ……


去り際に「僕まだ諦めてませんから。」なんてカッコイイ台詞を言われてそのままその時は、お別れした。ただ、それからの遠藤は……凄かった。

ことある度に絡んできたのだ。しかも、運命の神とやらは俺に厳しいらしい。何故か席が毎回隣になったり、着替えを覗かれたり(本人には悪気は無かったらしい)、大雨の日に傘を忘れた時に相合い傘と呼ばれる行為をしなければならなかったり……気づけば周囲にもカップル扱いされてた。だから俺は野郎には(ry

なんやこのラノベみたいな展開ッ!遠藤には主人公補正でもかかってるのか?いや、かかってるな、そうじゃなきゃこんなふうにはならない!

そんな事がありつつもなんだかんだで、告白から一年が経過し、俺は十六歳になった。

遠藤は未だに俺のことが好きらしい。見た目で好きになったにしては随分と長い。

少なくとも俺は遠藤に対して友人に対しての感情以外何も抱いちゃいないが。


そんな風に遠藤の主人公補正に苦しまされながら過ごしていたのだが、ある日俺は衝撃的な光景を見てしまったのだ。


遠藤が女子に告白されていた。遠藤はイケメンだ。そりゃあモテる。コーラを飲んだらゲップが出るくらい当たり前のことだ。ただ、その時俺の心の中に俺の知らないナニカが湧き上がり……俺はその場から逃げた。


結局遠藤はその告白を断ったらしい。好きな人がいるんだとか。はっ?馬鹿じゃねぇの?なんでだよ?あの子可愛かっただろ?お前の好みにも合ってたじゃないか。俺のことは見た目で選んだんだろ?俺の中身は男だぞ?なんで俺にこだわるんだよ?なぁ?なんでだよ?なんでだよ……


結局そのナニカが、よく分からないまま、意図的に分からないようにしていつも通りの日時を過ごし、夏休み前日、七月十九日になった。前世の俺の死んだ五時。その瞬間はおそらく俺の人生の一つの区切り、『俺』が『私』へと変わる転換期になる。それまでは俺は俺でありたいし、この感情にも気づきたくない。


そして、自分にとって一つの区切りとなるであろう瞬間の五分前、俺は……屋上にいた。

下駄箱に見覚えのある筆跡の手紙の超古典的スタイルで誰かに呼び出されたのだ。

差出人はまだ来ていない。

「ごめん、遅れちまった。」

「普通こういうのは女性側が来る五分前には来るものじゃないんですか?」

「ごめんね、けど中々決心がつかなくてな」

「今更なんの決心がいるんです?こんなことした回数は片手でおさまらないでしょう?」

「何回やっても慣れるもんじゃないよ。一回もOKを貰ってないし。それに、いつでも僕は一世一代の覚悟で臨んでるから。」

「なんでそんなに私にこだわるんですか?」

「君が好きだからさ、それ以外に何があるんだい?」

なんでこいつは何度も告白を断った相手にこんな事をいうのだろう。けど、俺に対してそんな感情を向けちゃいけない。別の人をさっさと見つけるべきだ。

「これから話すことは誰にも言わないでください。いいですか?」

「えっ、うん。」

「私……いや、…………俺は………昔男だったんだ。」

「何を言ってるんだい?」

「昔って言って言うよりは前世みたいなもののことなんだが、十六年間、浅井凛っていう名前の男として生きた記憶があるんだ。」

「……」

「そして、丁度今日……って言うのも変だが七月十九日午後五時に死んだんだ。」

「…………」

「しかも、俺と一番仲良かったのはお前だったんだぜ?」

「…………」

「もし俺が男子だったってことが信じられないなら……」

「分かった、そんな泣きそうな顔で言うってことは本当のことなんだな?」

言われてから視界が少し滲んでいることに気がついた。なんで…

「気持ち悪いよな?騙されてたって思うよな?百年の恋も冷めるってやつだろ?お前は俺のことなんて忘れてさ、幸せになってくれよ。少なくともお前は俺に向かってそんなアピールをするべきじゃないんだ。なぁ遠藤?」

「……そうか…それで何か問題があるのか?」

「え?」

「君は昔男だったって言ってたけど、正直僕は女の子の君しか知らない。僕からしたら君はただの可愛い黒髪ショート低身長まな板系俺っ娘美少女にしか見えない。」

何を言ってるんだこいつは。

「それに、約三十年分の記憶があるんだろ?実質ロリババアじゃないか。」

本当に何を言ってるんだこの変態は?

「それに君の話が正しいならもう少しで君は女子として生きてきた年月が男子の頃のそれを上回るじゃないか。一切問題は無いだろ?」

時計の秒針が六十秒を刻む、長針と短針がそれぞれ少し動く。三秒ほど遅れて鐘が鳴り始める。

「改めて言おう、一目惚れでした、僕と付き合ってください。」

「本当に俺………私でいいんですか?」

「勿論」

「中身は男ですよ?」

「そんなことどうでもいい。」

「本当ですか?」

「本当だ。君がいい、君じゃなきゃダメなんだ。」






「わかりました…………よろしくお願いします。」


鐘が鳴り終わり、私は笑顔でそう言った。

男の頃、そしてさっきまで友人だった男はその時私の友人じゃなくなったのだ。

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