天使は嘘をつかない
あああああ
見知らぬ男
朝、私の勉強机に見知らぬ男が座っていた。椅子ではなく、わざわざ机に。
男は俯いていて、横にいる私にまだ気づいていなかった。閉めたカーテンの隙間から漏れ出る朝日が、男を爽やかに、なおかつ悲しみを漂わせるように照らしていた。
声をかけるタイミングが分からず黙り込み、男の横顔を傍観する。
これといった特徴のない、凡庸な横顔だ。道行く人の記憶に残る訳でもない。ただ、短い髪は清潔感があり、悪い印象は抱かない。
分析途中だったが、男は私の視線に気づいたらしく、こちらに顔を向けた。
男は口を大きく開けて、目を丸くした。驚いているのはこっちなのにな、と思いながらもようやく話しかけられそうなことに安堵し、私は声帯を震わせた。
「どうして、私の机に座っているんですか?」
男は、私の質問に答えない。耳に入っていないのか無視されたのか。しかし、返事をしてもらわないと困るので、今度は少し声を大きくして言った。
「あの、どうして私の机に座っているんですか?」
「え?!」
大袈裟な返事を男はした。いや、私が大袈裟と感じただけで男にとっては通常なのかもしれない。ともかく、私の言葉は届いたようだった。耳が聞こえないということではないと分かったし、使用する言語の違いはなさそうだ。
「ええっと、俺がどうして君の机に座ってたか、だよね……」
単語をひとつひとつ選んでいるようなゆっくりとしたスピードで男は喋り始めた。
「何て説明しよう……」
何か、込み入った事情があるのだろうか。眉間に皺を寄せ唸っている。
私は男を急かすことはせず、待っていた。ろくに考えもしないでする発言は、良いものであることが少ないからだ。
男はやがて顔をあげ、机から降りた。そして、言いにくそうに口を開いた。
「俺さ、天使なんです」
天使は嘘をつかない あああああ @kemuru
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