小学生だけど忍者修行にはげんでます

無月兄

これが小学生忍者の日常だよ

第1話 毎朝忍者の修行やってます

 同級生のみんなは、毎朝何時くらいに起きてるんだろう。よくは知らないけど、毎日外が暗いうちに起きる子は、そんなにいないと思う。少なくとも、私と同じ小学4年生では。

 だけど、わたし芹沢真昼せりさわまひるにとってはこれが日常だ。


 もちろん眠くなる日もあるよ。特に昨日は、パソコンでお気に入りの動画を見ていて、いつもより寝るのが遅くれちゃった。だから今日はとっても眠いけど、寝坊は絶対ダメ。そんなことしたら、お父さんから大目玉を喰らっちゃうよ。


「真昼ー、起きたかー」

「いま行くー」


 そのお父さんの声が届く。いけない、早く行かなきゃ。

 寝る前に用意しておいたアレに素早く着替えて、わたしは部屋を飛び出した。


 わたしの家はとっても古い。マンションなんかとは違って木でできているし、ほとんどの部屋に畳がある。イジワルな男子からは古臭いなんて言われたけど、私は好きだな。


「さて、お父さんはどこかな? さっきの声だと、家の中っぽいけど……」


 そんな事を言いながら、多分ここだと思って茶の間に続く障子を開く。

 だけど部屋の中を見わたしても、そこにお父さんの姿は無かった。


「う~ん、もしかして他の部屋なのかな?でもお父さんの場合、姿が見えないからって本当にいないとは限らないよね」


 というか、きっとどこかに隠れているに違いない。今までの経験からそう思ったわたしは、目を閉じて、部屋の中にある小さな気配を感じ取る。

 そして目を開けると、壁にある柱時計に体を向けた。


「そこっ!」


 近くにあった座布団を、柱時計に向かって投げつける。するとその瞬間、柱時計はボンと音を立て、モクモクとした煙を出しながら消滅した。

 そして消えた煙の中から、一人の男の人が姿を現す。


「こんなにすぐに変装を見破るとは。真昼よ、腕を上げたな」


 その男の人は、頭には黒いズキンを被り、服は黒い着物って言う、全身黒ずくめの格好だった。さらに背中には刀がくくりつけられていて、手には手裏剣を持っている。


 まあ、私も似たようなもんなんだけどね。黒いズキンに黒い着物、刀に手裏剣。ほとんど同じ格好だ。

 こんな姿を見ると、みんな思い浮かぶのは一つしか無いと思う。そう、忍者だ。


 忍者はみんな知ってるよね。時代劇なんかに出てくる、敵のお屋敷に忍び込んだり、刀や手裏剣で戦ったりする強ーい人。で、この目の前にいる忍者が、私のお父さんだ。

 わたしもお父さんも、二人とも忍者。そして今は、その修行中だ。


「だがいくら居場所を見つけても、それだけではどうにもならんぞ!」


 お父さんはそう言うと、素早く両手を合わせては、色々な形に組み替えていく。忍法を使うつもりだ。


「忍法、分身の術!」


 次の瞬間、お父さんの体は四人に分裂して、わたしを取り囲む。


「こうして毎朝早くに修行をするようになってから、もうずいぶんとたつな」

「うん。おかげでいつも眠いけどね」


 わたしの毎日の早起きは、全部この忍者修行のためだ。小さい頃から続けてきたおかげで、今ではわたしもかなりの数の忍法を覚える事が出来た。

 だけど……


「じゃあこっちは火遁の術。あっ、でもそれじゃあ家が火事になるか。水を出して部屋を水浸しにしてもダメだし、じゃあ他には……」


 今までに覚えた忍法を思い出してみるけど、どれを使ったらいいのか分からない。間違って強力すぎる術を使うと、色んなものを壊してしまうかもしれない。そんな事にならないよう、忍法はよく考えて使わなきゃいけないって、お父さんも何度も言っている。

 だけどさ、火も水もダメなら、ほとんど術が使えないよ。


「ねー、火遁の術って使っちゃダメ?水の術でもいいんだけど」

「ダメだ。もし物を壊したら、真昼のおこづかいから弁償してもらうからな」


 ちぇっ。わたしもお父さんみたいに分身の術が使えたら何とかなるかもしれないけど、難しくてまだできないんだよね。


「だから家の中での修業は嫌いなの。外ならもっと思い切りやれるのに」

「何を言ってる。苦手だからこそ、それを何とかするために修行は必要なのだ。これが本当の闘いなら、敵はこっちのつごうなんて聞いてくれないぞ」

「本当の闘いなら、家より自分の方が大事だから、遠慮なく火遁の術を使うと思うけど」


 だけどそんな言葉は残念ながら聞いてもらえず、少しの間抵抗したけど、結局最後は四人のお父さんに取り押さえられてしまった。

 わたしの負けで、今日の修行は終わり。と言いたいところだけど、これからさらに反省会がある。


「隠れていたのをすぐに見つけられたのは良かったが、それからがダメだったな」

「だって、家の中で使えそうな忍法って少ないんだもん」


 さっきも言ったけど、私が使える術のほとんどは、家の中で使ったらいろんな物を壊しそうなんだもん。お父さんだって知ってるのに、イジワルだ。


「それを何とかするのが今回の修行の目的じゃないか。それに家の中がダメなら、一度外に逃げてから戦えばよかっただろう」

「えっ。だって、外でやろうって言っても聞いてくれなかったじゃない」

「お願いしたって、敵が聞いてくれるはず無いだろ。だけど、上手く場所を変える事が出来たら、あとは忍法も使い放題。それが、忍者の戦いって言うものだ」


 えーっ、だけど家の中で戦う修行のはずだったのに、外に逃げてもいいなんて、そんなのズルくない?


「もちろん家の中でも戦えるようになったらその方がいいけどな。真昼、お前も将来プロの忍者になるなら、忍法や体力だけでなく頭も鍛えなきゃダメだぞ」


 笑ってそう言うお父さんだけど、ちょっと待ってとわたしは思う。戦いや修行のやり方はまだしも、わたしの将来については黙っていられない。


「わたし、プロの忍者になるつもりなんてないんだけど」

「なに⁉ どういう事だ!」


 あんぐりと口を開けて驚くお父さん。ああ、そう言えばまだお父さんにはまだ話したこと無かったっけ。

 いい機会だから、ちゃんと言っておいた方がいいかな。


「えっと、わたしは別にプロの忍者になる気は無いよ。だって、もう平成も終わって令和になったんだよ。それなのに今どき忍者なんて、時代遅れじゃない」

「なっ……なっ……なっ……」


 とたんにお父さんの顔が崩れて、声も無く苦しそうに胸をおさえながらうずくまる。

 えっと、ショックだったのかな?


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