花火で遊ぼう!(14)

「そうだよ。バナナの歴史は何千年も前にまでさかのぼるんだけど、その昔は品種改良なんて技術が無かったから、果肉には種がびっしり詰まってたんだ」


「ふんふん。じゃあ昔はその種を埋めて、バナナの成る木を育ててたって事だよね?」


「それも考えられるし、自然の落果に任せて増えていったのもあるだろうな。でも、今の食用にするバナナには種が無い。その理由が、まず遺伝子による――」


「義弘。お話に熱が入るのは結構なことだけれど、せっかく冷やしたスイカなんだから、早くミオちゃんに食べさせてあげなさいよ」


「あ……そうだったな、ごめんよミオ。それじゃ食べながらお話しよっか」


「うん。いただきまーす。お話もいっぱい聞かせてね!」


 いかんいかん。つい、いつもの調子で雑学を披露する事に熱中していたら、呆れた様子のお袋からお叱りを受けてしまった。


「んー! 甘くておいひい」


「お、口に合ったかい? 良かった良かった」


「うん! この黄色いスイカ、おいしいだけじゃなくて、赤いのよりもずっとずーっと甘い気がするの」


「そこまで喜んでもらえて、お祖母ちゃんも、しっかり選んできた甲斐があったわ。やっぱりミオちゃんは、うちのお父さんよりも舌が肥えているわね」


「え? シタガコエテイルってなぁに?」


「お袋の話を簡単に要約すると、この場合は、ミオは味の良し悪しが分かる子だねって意味だな」


「そうなの? でも、自分じゃよく分かんないよー。クッキーもお寿司も、このあまーいスイカも、全部おいしいんだもん」


 ミオがそう言って首を小さく横に振り、謙遜する様を見るに、この子は自分の舌が肥えているという評価に対しては、身に余ると思っているのかも知れない。


「ミオちゃんは、義弘の作るご飯は好き?」


「うん、好きだよ! スクランブルエッグにカレーライスでしょ、それからアジを釣って一緒に作った漬け丼も、全部全部だーい好き!」


「ミオ……ははっ、何だか照れ臭いね。でも嬉しいよ。ありがとな」


 俺が空いている方の手で、ミオの頭を優しくポンポンすると、ミオはいかにも幸せそうな顔で、俺の手に頬をこすりつけて甘えてきた。


「あらあら。あなたたち、こんなところで見せつけてくれちゃって。ほんとに仲良しなのねぇ」


 ――他方。


 俺たちのイチャイチャを微笑ましく見ていたお袋に、かわいい孫のミオを引き合いに出して当てこすられた親父は、基本的に、出された飯を食ったり、酒を飲んだりしても、まず味の感想を述べることは無い。


 親父の飲食時の寡黙かもくさは、俺が物心ついた頃からずっと一貫しているので、お袋が真心を込めて作った晩ご飯のおかずを食しても、「うまい」という褒め言葉はもちろん、口に合わなかった料理への不満すら、ほとんど言わないのである。

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