田舎に帰ろう!(6)

「はは、今はまだ、そんなに気張らなくてもいいって。ミオがこうして、ご飯の準備をしてくれているだけでも、俺は嬉しいからさ」


「んー、でもぉ」


「それにほら、ミオにはまだ学校があるだろ? 本格的な花嫁修業はもっと、時間に余裕ができる歳になってからでも遅くないと思うよ」


「分かったよー。じゃあ、今はできる事だけ頑張るね」


「うん。ありがとな」


 俺がそう言って、ミオの頬に両手のひらをそっと添えると、ミオは愛おしそうに頬ずりしてきた。


 うちのかわいい子猫ちゃんにとっては、大好きな人の体に頬ずりをして甘える事が、最高の愛情表現なのだ。


 もっとも、先週の納涼祭による射的の時、俺のほっぺたにキスしてくれた事によって、ミオが愛情表現に革命を起こしたような気がしないでもない。


 あの時のミオの柔らかくて瑞々しい唇の感触、今でも忘れられないなぁ。何しろ、天にも昇るような心地の良さだったからね。


「あ。お兄ちゃん、ご飯温まったよ!」


「うん。それじゃあ腹もペコペコだし、早速食べるとしますか」


「ねぇねぇ。ボクも一緒にいてもいい?」


「一緒にって、この食卓にって事?」


「そ。お兄ちゃんがご飯食べているとこ、ずっと見ていたいの。……ダメ?」


「ダ、ダメじゃないよ。二人一緒だった方が、いろんなお話もできるし、むしろ大歓迎さ」


「良かった。ありがとうお兄ちゃん」


 ミオは俺の返事を聞くなり、喜び勇んで俺の対面に座り、二人分の麦茶をグラスに注いでいく。


 やっぱり夏場は麦茶だよなぁ。カフェインレスだから子供にも優しいし、体も冷やしてくれる。そして何よりうまい。


 まだ小さかった時の俺が外へ遊びに行くときも、うちのお袋が大きな水筒に、麦茶と氷をたっぷり詰めて送り出してくれたものだ。


 柚月ゆづき家の麦茶は、とにかく濃さが売りだ。麦茶のパックに沸騰した熱湯を注いで蓋をし、充分に蒸らした後、冷水ポットに移して冷やす。


 そうして冷蔵庫で一晩寝かせた麦茶は、焦げ茶のような色濃さに加え、芳しさがより一層強くなるので、見た目と匂いと味わいの全てが楽しめる一品になるのである。


 お袋、まだあの手間暇かけた麦茶、今でも作っているかなぁ。せっかく帰省するんだから、ミオにも飲ませてあげたいよな。

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