ショタっ娘のお祭りデビュー(41)

 まるで慈母のような、優しい微笑みを向けられた俺は、思わず頬が紅潮し、ほのかな熱を持ってしまった。


 一体いつ以来だろう。俺みたいな非モテ男に、女の人がここまで親しく接してくれたのって。


 こうして直接お会いして初めて分かったんだけど、里香さんのお母さんって、とても品のあるお方だよなぁ。


 その落ち着いた佇まいや慎ましやかなところ、そして丁寧な言葉遣いの端々から推察するに、きっとこの人は、良家で厳しく躾けられてきたんだろう。


 俺はどちらかというと、こういうおしとやかな女性が好きなもんだから、娶った旦那様を羨ましく思ってしまう。


 しかも美人だし、左目の下にある泣きぼくろも色っぽい。この人の、左手の薬指に指輪がなければ、世の男どもはきっと放っておかなかった事だろう。


 ミオがかつて見ていた昼メロ的な展開を期待するなら、指輪の有る無しは、この際は些細な問題じゃあ関係ないのかも知れない。


 もっとも、今の俺には天真爛漫で泣き虫で、甘えんぼうで、どこか天然なところがあるショタっ娘ちゃんが恋人になってくれたんだから、今さら心が揺らぐ事は無いんだけどね。


「ご来場の皆様へご連絡申し上げます。時刻は現在、八時四十五分になりました。当神社の納涼祭は九時をもって終了となりますので――」


 水ヨーヨーで遊ぶミオと里香さんを、彼女のお母さんと談笑しつつ見守っていると、場内のスピーカーからアナウンスが流れてきた。


 そうか、もうこんな時間になるんだ。楽しい時はあっという間に過ぎちゃうんだなぁ。


「里香、そろそろ帰りましょう。遅くなるとお父さんが心配するわよ」


「ミオ。俺たちも帰る準備をしよう。お祭りが終わっちゃう前に、おみやげを買って行こうな」


「はーい」


 ミオと里香さんが遊びの手を止め、口を揃えて返事をする。


「ミオちゃん、おみやげって何を買うの?」


「えっとね、すっごく大きい綿飴だよ。袋いっぱいに詰めて売ってくれるんだー」


「あ、いいなぁ。ねぇママ、あたしも綿飴ほしーい」


「里香、ちゃんと一人で食べ切れるの?」


「たぶん大丈夫だけど、もし無理だったら、パパにも食べてもらうから。いいでしょ?」


「もう、仕方のない子ねぇ」


 里香さんのお母さん……怜香れいかさんは右頬に手を当て、苦笑いを浮かべはしたものの、特段困った様子は見せなかった。

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