ショタっ娘のお祭りデビュー(29)

 俺たちの会話があまりに珍妙だったからか、傍で聞いていた射的屋のお姉さんが、クスクスと笑っている。


 たぶんお姉さんとしても、誰がコスプレするのかはうすうす感付いているのだろうが、ありえない光景を想像したら、そりゃ笑いもするよな。


「あれはミオのためのプレゼントだよ。甘えんぼうのミオに、子猫ちゃんの格好をして欲しいんだ」


「ボクが猫ちゃんになるの?」


「うん。さて、それじゃあ残り一発。最後の大勝負と行くか……」


「にゃぁーん。お兄ちゃん、頑張ってぇ」


「はぅ!?」


 俺の銃を構える様にときめいていたミオが、猫になりきって抱きつきながら甘えてきたので、動揺のあまり、最後の弾があらぬ方向へと飛んでいってしまった。


 ミオを責めるつもりは毛頭ないが、子猫系ショタっ娘ちゃんに猫の鳴き声を交えて甘えられたら、そりゃキュンとして的も外すよな。


 一応、何とか他の的には当たったのだが、肝心のコスプレセットが貰えるC賞の景品は健在のようなので、チャレンジ自体は失敗である。


 まぁ、ハナから三百円ぽっちでお目当ての景品が取れるとは思っていなかったし、狙いも良かったから、追加で弾を買って再挑戦するとしますか。


「お、大当た……り……」


「え?」


 再装填するためのコルク弾を買うべく、射的屋のお姉さんに声をかけようとしたら、お姉さんは顔をこわばらせ、ぎこちない笑みを作っていた。


「うう。A賞、携帯ゲーム機の景品獲得だよ。お兄さん、ひょっとしてプロなの?」


「ま、まさか! 俺はずっと猫ちゃんのコスプレセット狙いだったんだけど、この子に抱きつかれた拍子に、ドキッとして、照準が右にずれちゃって」


「……はぁ。ミオちゃんはとんだラッキーボーイだねぇ。いくらアクシデントとは言え、まさか三センチ角の的を、こうやすやすと撃ち落とすなんてさ」


「んで景品は携帯ゲーム機ですか。最新機種だから価値はあるんだろうけど、俺もミオも遊ばないしなぁ」


 俺と射的屋のお姉さんとの会話を聞いていたミオは、二人の顔を交互に見て、目をパチクリさせている。


 どうやらこの子には、一体何が起こったのか、まだ理解が追いついていないようだ。

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