初めてのペットショップ(10)

「さ。まだ明るいうちに、今日の晩飯のおかずを買って帰ろうか」


「あ! ちょっと待って、お兄ちゃん」


「ん? もしかして、まだ遊びたいとこあった?」


「えっと、そうじゃないの。お兄ちゃんが一階で浴衣売ってるとこ聞いた時、大人用の浴衣を買えるところも教えてもらってたでしょ?」


「ああ、そういや聞いてたね。たしか七階だったような」


 さすがの記憶力だ。ミオに言われるまで、その事をすっかり忘れてたなぁ。


 何しろ今日は、佐藤やら里穂さんやら、アクの強い人たちに出くわしたもんで、自分用の浴衣も買おうか検討していた事が、頭からすっかり飛んでしまっていたのだ。


「あれって、お兄ちゃんの浴衣も買うつもりだったんだよね」


「うん。似合うかどうか分かんないけど、一応見ておこうかって思ってさ」


「じゃあ、おかずを買う前に、そっちに寄ってこ?」


「いいのかい? ミオ、疲れてない?」


「大丈夫ー!」


 ミオは元気よく答えると、俺の腕にぎゅーっと抱きついてきた。


 今日はいろんなところへ連れ回したから、疲労が溜まっていないかと心配していたんだが、この様子だと、まだまだ体力は有り余っていそうだ。


「ボク、今度のお祭りは、お兄ちゃんと一緒に浴衣を着て行きたいの」


「ミオ……」


「……わがままかな?」


「そ、そんな事ないよ!」


 俺の腕を愛おしげに抱くミオが、顔色を伺うかのように見上げてきたので、俺は「わがまま」という言葉を即座に打ち消す。


 わがままだなんて、とんでもない。俺とお揃いでお祭りへ出かけたいって言ってくれるのは、むしろ嬉しい事なんだ。


 恋人同士なら、さすがにペアルックとまでは言わなくても、好きな人と衣服を合わせたい、と思うのは至極当たり前だろう。


 残念ながら元カノはそういう人じゃあなかったけど、現カノのミオは考え方が違うからね。


 という事なので、俺たちは七階の催し物会場まで足を運び、大人用の浴衣や履物やらを買い揃えてから、地下のグルメフロアでおかずを買って家に帰ったのだった。


 俺が着る浴衣はミオにも一緒に選んでもらい、今日の晩ご飯のおかずは、ペットショップで飛び出した単語から着想を得て、鶏レバーの煮物を真っ先に買った。


 さあ、これで全ての準備は整ったし、後は一週間後の納涼祭を迎えるだけだ。


 週間天気予報の小さな傘マークだけが気がかりだけど、何とか、土日のどちらかだけでも晴れてくれますように。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る