初めてのペットショップ(9)

「このお店って、ワンちゃん猫ちゃん以外にもいるのかな?」


「いるんじゃないか?」


 と答えるだけでは無責任なので、俺は首を伸ばし、ケージの向こう側を覗いてみる。


「ああ、見えたぞ。あっちの方には、ハムスターがいるみたいだよ」


「そうなんだ。ハムスター、かわいいよね」


「回し車を一生懸命走るところとかな」


「うんうん、手のひらに乗るくらいちっちゃくてかわいいんだぁ。…………だけど」


「ミオ……」


 突如として眉尻を下げ、言い淀んでしまったミオの心情を推し量るに、たぶん犬猫に比べて寿命の短いハムスターが天に召され、ペットロス症候群に陥った時の事を考えているのだろう。


 あるいは、俺と再会するまでの施設での生活で、すでに似たような経験をしているのかも知れない。


 うちのミオは、生みの親に捨て子にされたという過去がある。そこへ来て、ペットにまで先に逝かれてしまったら、落ち込む、悲しむどころでは済まないのではないか。


 ペットを取り扱うお店の人や、ペットロスを経験した事のある人は、寿命が短いからこそ、生きている間にたくさん愛情を注いであげて欲しいと言う。


 ただ、可愛がれば可愛がるほど、ペットとお別れする時の辛さや悲しみが大きくなるのもまた事実。だから、生き物を飼う時は責任だけではなく、覚悟をも持たなくてはならない。


 ミオはおそらく、その事を身をもって知っているのだろう。でなければ、ここまで切なそうな顔をしたりはしないはずだ。


 だからと言って、ペットを飼う事に否定的な感情を持っているわけではないのは、鈍い俺でもさすがに分かる。


 とにかく、これ以上、ハムスターに関する話を広げるのは止めよう。


 それが最善の手段なのかどうかは分からないけれど、ミオが負っている心の傷をえぐったり、増やしたりしたくない……という思いが強く出た結果がこれだった。


「ミオ。そろそろ行こっか?」


「うん。ごめんねお兄ちゃん」


「いいんだよ。謝らなくたって」


 俺は、下を向いたミオの頭を、励ますようにポンポンする。


 家に帰ったら、お留守番してるウサちゃんのぬいぐるみを、二人でいっぱい可愛がろうな。

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