義弘お兄ちゃんの懸案事項(2)

「お兄ちゃん。見て見て!」


「ん? なになに?」


「ここに書いてあるよ。大人の人も乗っていいって」


 ミオが指差した電気自動車乗り場の案内板によると、定員は子供一名。ただし、大人一名も同乗は可能だとの事だった。


 つまり今回のケースだと、ミオが前に乗って運転を担当し、それを見守る保護者の大人は、後部に座っても良いのだそうだ。


「確かに書いてある。大人を乗せても大丈夫だなんて、結構馬力があるんだな、これ」


「ねぇお兄ちゃん。ボク、お兄ちゃんと一緒にパンダさんに乗って遊びたいの。だから……乗ってくれる?」


 俺の腕をぎゅっと抱いたミオが、澄みきった、深みがある青い瞳をキラキラさせながらお願いしてくる。


 ショタっ娘ちゃんにここまで言わせて、それでもなお断るやつは、保護者としても彼氏としても失格だろう。


 もはや恥じらっている場合ではない。俺はこれからミオと一緒にパンダさんに乗って、遊園地デートをめいっぱい楽しむんだ。


「よし。じゃあ二人で乗るか」


「やった! ありがとう、お兄ちゃん」


 俺はぴょんぴょん跳ねて喜ぶミオを連れ、パンダさんたちが待ち受ける柵の中へと入っていった。


 小さな子供たちがキャーキャー言いながら動かしているパンダの乗り物を、こうしてまじまじと近くで見てみると、思ったよりも大きく、そして背中の部分が長い。


 確かに、この長さなら大人も同乗できるだろう。


「今回はミオが運転するから、座るのは前の方だね」


「うう。大丈夫かなー」


「こういうのはゆっくり動くようになってるし、心配いらないよ」


 ミオからクッキングトイの箱を受け取った俺は、残った片腕でミオを抱き上げ、前方の座席に座らせる。


「操作方法だけど、ハンドルは右左に回して動かすんだ。で、こっちのコイン投入口の横にあるのが……後退ボタンか」


「こうたいぼたん?」


「簡単に言うと、このボタンを押せば、パンダさんが後ろに下がるってことだな」


「それって何に使うの?」


 ミオがハンドルの感触を確かめながら、パンダが後ずさりする事の意味を尋ねてくる。


「そうだなぁ。めったに使わないと思うんだけど、例えば、他のパンダさんとか、柵にぶつかりそうになった時のためだろうね」

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