義弘お兄ちゃんの懸案事項(3)

「ぶつかったりするの?」


「はは、あくまで念のためだよ。パンダさんはミオが操作した通りに動いてくれるから、ちゃんと前を見て運転すれば大丈夫だって」


「分かったー。ボク、ぶつからないように気をつけるよ」


 神妙な面持ちでハンドルを握るミオを微笑ましく見守りながら、俺はコイン投入口にお金を入れた。


 ショタっ娘ちゃんにとって人生初めてとなるパンダ型電気自動車、いよいよ発進である。


「お兄ちゃん、最初は真っ直ぐ進んでみるねー」


「うん。ミオに任せたよ」


 百円玉を二枚投入されたパンダさんは、ゆっくり前進を始めると同時に、お腹の方からメロディをかなで出した。


 乗り物が音楽を鳴らすのは、こういう、子供がまたがって楽しむ遊具にはあるあるの機能だよな。


 でも、なぜだろう。俺たちが乗っているのはパンダなのに、よりにもよって『メリーさんのひつじ』を流すようにしたのは。


 おそらくだけど、ミオくらいの幼い子たちなら、これが何の曲で、いかにパンダとミスマッチであるのかまだ分からないと判断して、適当に選曲したのかも知れないな。


 もっとも、『メリーさんのひつじ』自体は、のどかというか牧歌的で優しそうな歌だから、子供をリラックスさせる狙いとしては覿面てきめんだとは思うけれども。


「ねぇ。お兄ちゃん」


「ん? どうかした?」


「今流れてる音楽って、羊さんの曲だよね。パンダさんと何か関係があるの?」


「ははは、やっぱり疑問に思うよな」


 製造元さん。さすがに十歳のショタっ娘ちゃんには、曲名がバレてるみたいだよ。


「ほら。何と言うか、この音楽には心を落ち着けさせる目的があるんじゃないか?」


「心を?」


「そう。ミオもさっきまで緊張してただろ」


「なるほどー。そういえばボク、音楽が流れてから、ちょっと落ち着いてきたかも」


 パンダさんが動き出すまで、ガチガチな様子でハンドルを握っていたミオも、今は後ろを振り向く余裕すらある。


 ならば、やっぱり俺が予想した通り、優しい音楽を流す事によって、子供の心に安らぎを与える目的があったのかもなぁ。

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