初めてのデパート(12)

「えっと。この子に合う浴衣を探してるんですけど、売り場は何階にありますか?」


「お嬢様の浴衣をお求めですね。ただ今照会いたしますので、少々お待ちいただけますでしょうか?」


「はい、お願いします」


「お嬢……」


 俺の隣でお姉さんとのやり取りを聞いていたミオが、お嬢様というフレーズを耳にした途端、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をする。


「ミオ? 大丈夫か?」


「ねぇお兄ちゃん。ボク、また女の子に間違えられたの?」


「まぁ、そうみたいだね。何たって『お嬢様』だから」


 それどころか受付のお姉さんは、俺の事もミオのお父さんだと勘違いしているフシがあるんだが、さすがにそれは口に出さないでおいた。


「お兄ちゃん。ボク、そんなに女の子に見える?」


「そうだなぁ。いつも一緒にいる俺が言うのも何だけど、見えるっちゃあ見えるよな」


「どんなとこが?」


「ミオが今着てる服は、女の子用でもあるだろ? だから間違えやすいんだよ。それから……」


「ん? それから?」


「一番は、顔も仕草も、全部がかわいいとこかな」


 目を合わせ、ショタっ娘ならではのキュートさを率直に伝えると、ミオの頬がみるみるうちに紅潮していった。


「もー、お兄ちゃん! 恥ずかしいよぉ」


「ははは、ごめんごめん。でも、ほんとにかわいいって思ってるからさ」


「そうなの?」


「うん。いつも思ってる。ミオはかわいいって言われるの、嫌?」


「んーん、嫌じゃない……よ」


 ミオはそう言うと、俺の腕にしがみつき、紅く染まった頬を隠すかのように顔をうずめてきた。


 くぅー、たまらん。こういう恥じらいのリアクションがまたかわいいんだよなぁ。


 今のミオは男女どちらかと言うと、顔や声や体つき、そして仕草までもが女の子寄りだ。


 くっきりとした二重まぶたに長いまつ毛、大きな瞳が特徴的なミオの顔。


 そんな超が付くほどの美形に加え、丈の短いショートパンツから伸びるこの脚線美が、ミオの中にある女性らしさを、より一層強調しているのである。


 かような見た目だからこそ、初めて会った人には女の子と間違えられやすいわけだが、俺はそれでもいいと思っている。


 常に自然体でいるからこそ、キュートなショタっ娘としての魅力を発揮しているわけで、無理に男っぽさを出そうとしたところで、きっとミオには似合わないだろう。


「お待たせいたしました。お子様向けの浴衣は、六階、子供服売り場の『キッズ・ヴィドール』にて取り扱っております」


「六階ですね。えーと、キッズ……」


「こちらが六階のフロアガイドになります。どうぞお持ちくださいませ」


 インフォメーションのお姉さんは、先ほど浴衣を売っている店を赤く色付けて強調した、フロアガイドのペーパーを印刷して渡してくれた。


 これだけ分かりやすい案内図があれば、まず店探しで苦労する事はないだろう。

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