初めてのデパート(7)

 俺の「これでもか」というくらいの説明口調に加え、眼光鋭く詰め寄った事で、さすがの佐藤もたじろぎながら返事をする。


「えーと、せやなぁ。あれはメチャかわいい、かぼすのぬいぐるみやったな。うん」


「ほうほう。それで?」


 俺は佐藤にアイコンタクトを送り、さらなるコメントを促す。


 ぬいぐるみの外見について語るのはさっきのでいいのだが、今ミオが聞いているのは、自分が選んだおみやげを気に入ってくれたかどうかであるため、まだもう一言必要なのだ。


「もちろん気に入ったで。カボカボちゃん人形、今はオレの家族も同然や。ホンマありがとな、ミオちゃん」


「いえ……それなら良かったです」


 佐藤からの好評を聞いて安心したのか、さっきまで硬くなっていたミオが、一転して柔和な笑顔を見せる。


 今のナイスなコメントは、男女分け隔てなく、しっかりと気配りが出来る佐藤の本領発揮といったところだ。


 出来ることなら、お前におみやげを渡したあの日に、お世辞でもいいから、そういう気の利いた言葉を残しておいて欲しかったんだけどな。


「ほんで、話は戻るけど。ミオちゃんに着せてあげる浴衣は見つかったんか?」


「いや、それが全く。この階の、どこを探しても呉服店が無いんだよ」


「さよけ。まぁ紳士服売り場や言うても、ここは洋服がメインやさかいな」


「佐藤。ダメ元で聞くけど、浴衣を売ってる店がどこにあるか知らないか?」


「オレが知っとるわけないやろ。そういうピンポイントな情報は、デパートの全売り場を把握しとる人に聞くもんや」


「そんな人いるの?」


「柚月。情報通っちゅうんは、どこにでもおるんやで。まずはその人を探してみることやな」


 情報通か。例えば、毎日デパート通いしている買い物客に尋ねてみるとか?


 でもそんな人、どうやって見分ければいいんだろう。パッと見じゃあ、絶対分からないよな。


「デパートっちゅうのは何でも置いてあるのがエエとこなんやで、根気よく探せば見つかるやろ。特に夏場の浴衣は、多少値が張っても売れる人気商品なんやから、置かんわけがあらへん」


「だといいんだけど……」


「柚月、お前がそんな弱気でどないすんのや。そもそも、浴衣売ってるんを期待してここまで来たんやろ」


「う。そ、それは」


 うっかり言葉に詰まってしまったが、なるほど、まさしく佐藤の言う通りである。


 俺はかわいいミオのため、浴衣を買うと決めてこのデパートへ来たというのに、たったワンフロアを見て回って成果が無かっただけで、マイナス思考に陥りかけていたのだ。


 そんな体たらくでは、一緒に来てくれたミオにまで不安な気持ちにさせてしまう。こんな時だからこそ、ポジティブシンキングで浴衣探しを続けなくては。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る