さらば、リゾートホテル(5)

「はい。だから、明日は朝から、海に連れて行ってもらえる事に決まったんです」


「明日?」


「そ。ぼくたちは明日までお泊まりなんで、『明日は家族でたくさん遊ぼう』ってパパたちが約束してくれたんだよ」


「そうだったんだ! よかったねぇー」


 ミオがポンと手を叩き、笑顔で祝福した。


 反省か、まぁ普通の親ならそうなるよな。


 考古学者がどれだけ忙しいのか俺には分からないけど、世界で一番かわいい我が子よりも仕事を優先させた結果、他の宿泊客からカラオケの誘いを受けた事を知るや、自分が一体何をしてきたのかに気付いたのだろう。


 これで明日は、如月家が水入らずでバカンスを楽しめるといいんだが。


「あ。エレベーター来たよ。乗ろっ!」


 三つあるエレベーターのうち、三階に到着してドアが開いたのは、一番左側のエレベーターだった。


「このエレベーターって、テレビみたいなのが付いてるんだよねー」


「あ、これですよね。すごく綺麗な景色を見られるから、僕たちも乗るたびに楽しみにしてたんです」


「分かるよ。何せこのモニターは、島の名所の紹介だったり、海の景観を見せてくれたりするから、乗っている間も飽きないんだよな」


「ぼく、この〝般若岩はんにゃいわ〟ってのが気になっているんだけど、柚月お兄さん、知ってます?」


「え? 般若岩?」


「お兄ちゃん、これって……」


 そう。このモニターでも紹介されている般若岩は、俺たちがチェックインした昨日、観光名所めぐりの一発目をして見に行った、何とも微妙な代物だったのだ。


 何せ般若どころか、ほんとに鬼の顔をしているかどうかすら分かんなかったんだから。


 ユニィ君は、そんなガッカリスポットが気になり、行きたくなっているのかも知れないが、あんまりお勧めはできないよなぁ。


「もしかして、行って見てきたんですか?」


「あー、まあ、ね。んで正直に言うと、大したもんじゃなかったよ。な、ミオ」


「うんうん。あれ、普通の岩だったよねー」


「そうなんだ。かっこいいかなって思ってたんだけど、残念だなぁ」


 などと話をしているうちに、俺たちを乗せたエレベーターは、あっという間に四階へと着いた。


「あ。でもね、近くの神社ならおすすめだよー」


「神社ですか?」


「うん。そこって縁結びの神社でね、好きな人と結婚できますようにってお願いするとこなの」


「結婚……!」


 よほど気になるワードだったのか、即座に反応したレニィ君は大きく目を開き、各部屋の迷惑にならないくらいの声量で、二、三回「結婚」とつぶやいている。


 もしかして、この子もすでに結婚願望を持っているのか?

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