初めてのカラオケ(7)

「甘いの辛いの、どっちも大好き! お菓子はみんなのお友達だからぁー」


 くぅー、きつい!


 と言ってもこの場合の〝きつい〟は歌詞の事じゃなくて、原曲キーが高すぎて、三十路近くの男が歌うには厳しすぎるのだ。


 高音域が出せる男性歌手なら苦にもならない高さではあるが、地声が低い俺にはかなりの苦行で、もう首にはビンビンに筋が張っている。


「辛い事もあるけれどぉー、貴方はきっと独りじゃないの。だから涙を拭いて、明日へと駆け出そぉー」


「お兄ちゃん、頑張ってぇー!」


「ファンタスティックです……柚月さん」


 いかん、声を張り上げすぎて血圧が上がったのか、頭がクラクラしてきた。


 だが、ここでリタイヤして、応援してくれるショタっ娘たちの期待を裏切るわけにはいかない。


 何としても、最後まで歌いきってやる。


「チェンジ、チェンジ、プリティクッキー!」


「キラリッ!」


 サビの部分では、ミオとレニィ君が声を揃え、括弧の中身を歌って補完してくれた。


 ユニィ君は相変わらず、マイペースでタンバリンを叩いている。プリティクッキーを知らないなりに、楽器を使ってサポートしてくれているようだ。


 この子はたぶん、将来は盛り上げ役としての宴会部長になれるな。


「愛を信じる限り、きっと夢の世界にけるよ、マイ・ハート……」


 ――よし、歌い切った!


 頭の血管がプッツンするかと思うくらい気張ったが、何とか原曲キーで最後まで歌唱したぞ!


 知らない二番からは、画面に表示される歌詞を頼りに歌い、ミオたちの反応を見る事はできなかったんだけど、果たしてショタっ娘たちの評価はいかに。


「お兄ちゃん……」


「ど、どうだったかな。俺が歌うとこんな感じになっちゃったけど」


「すっごくかっこよかったよー!」


 隣にいたミオは、全精力を使い果たして疲弊ひへいした俺に抱きつき、ほっぺたをすりすりしてきた。


「かっこよかった、かなぁ?」


「はい! 柚月さんが一生懸命歌っているお姿、とてもかっこよかったです!」


 俺に憧れ、好意を持っているのであろうレニィ君も、目を輝かせながら、最高級の賛辞を送ってくれる。


「はは、ありがとう。二人にそう言ってもらえると嬉しいよ」


「プリティクッキーってこんな曲だったんだぁ。ぼく、ちょっと好きになったかも」


 これまで少女向けアニメに興味を示していなかった弟のユニィ君は、俺のカラオケか、あるいは画面に流れていたアニメのワンシーンによって、プリティクッキーへの見方が変わったようだ。


 というみんなの反応を見ると、頑張って歌った甲斐はあったかな。


「あー疲れた! もう、喉がカラカラだぁ」


「お兄ちゃん、お疲れ様! はい、ジュース飲んでね」


 ミオが気を利かせて、ワンドリンクで頼んでいたジンジャーエールのグラスを持ち、ストローで飲ませてくれた。


 うん。ほどよい甘さと炭酸が喉の渇きをうるおしてくれるから、人心地ついたような気分になるな。

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