初めてのカラオケ(4)

「え? もう始まってる!? ほ、吠えろー吠えろーよぉー男の海でぇー」


 歌い出しを見誤ったユニィ君が、大慌てでマイクを持ち、スイッチを入れて歌い出した。


たたええよぉー砲弾んー、海の女神は俺たちのものさぁー」


「あははは。ユニィ君の歌い方おもしろーい」


「もう、ユニィったら足を開きすぎだってば……」


 カラオケというのは部屋中に響き渡る大音量が売りなのだが、実はこの子たちがその音量に驚きはしないかと、さっきまで心配していたのだ。


 特に、普段のミオは大きな音が苦手なので、ビックリしてしまってカラオケが嫌になるかも知れない、という懸念はあった。


 ただ、今のミオの反応を見るに、どうやら音の大きさよりも、ユニィ君の歌うスタイルと、そのキャッチーなメロディを純粋に楽しんでいるようである。


 ところでこの曲の歌詞、哲学的な疑問になるが、海賊の言う〝男の海〟って何なんだろうな。


 このアニメには、海賊のお頭が実は女性だった、みたいな逆のパターンは無いのかねぇ。


「ねぇお兄ちゃん」


 ユニィ君の歌声を聴きつつ、歌詞が流れる画面を見つめていると、ミオが対面のソファーを離れ、俺の隣に座ってきた。


「ん? 歌いたい曲決まった?」


「まだだよー。先に、お兄ちゃんの歌が聴きたいなって思って来たの」


「そっか。じゃあ、俺も予約しちゃうか」


「うん! 予約してー」


 俺はテーブルに置かれていたデンモクを手に取り、曲の検索にかかる。


「この〝本人映像〟って何だろう。ミュージックビデオみたいなもんかな」


「ミュージックビデオ?」


「えーと。例えば歌手が新曲を出すときにね、本人が歌っている映像を収録して、それをテレビ局とかに売り込むんだよ。それがミュージックビデオっていうの」


「そうなんだ。でも、その本人映像から探すのって大変じゃないの?」


「まぁそうだな。まず、歌手の名前を知らないと検索できないしね」


「だよね。ボク、曲の名前は分かるけど、誰が歌ってるのかまでは知らないもん」


 という返事を聞くに、子供にとっては、曲のメロディや歌いやすさ、話題性なんかを重視する事が多いのだろう。


 俺も小さい頃はそうだったから分かる。


 特にアニメソング、いわゆるアニソンを歌う人はなかなか音楽番組に出てこないし、そもそも、ミオくらいの歳の子は言うほど音楽番組に興味が湧かないし。


 だから本人映像が流れる曲を歌っても、たぶんこの子たちにはピンと来ないと思う。


「うーん、いざとなると悩むな。ミオ、何か聴きたい曲ある?」


「んー? ボクがお願いしてもいいの?」


「いいよ。俺が知ってる曲ならだけどね」


「じゃあ、『魔法少女プリティクッキー』歌ってー」


「えっ!?」


 ミオの思わぬリクエストに、俺は激しく狼狽ろうばいしてしまった。


 確かに俺が知っている曲ではあるけどさぁ、まさかガチガチの少女アニメ『魔法少女プリティクッキー』を持ってくるとは。


 しかも歌ってる人、もろにキーが高い女性じゃん。

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