夜遊びの約束(9)

 今日はグラスボートで群れを見た関係で、カツオをフィーチャーしていたけど、もちろん、その他に食べた洋食メニューも全部うまい。


 特にうまかったのが、ここ、佐貴沖島さきのおきしまのブランド牛、佐貴島牛さきしまぎゅうのサーロインステーキだな。


 やっぱり肉料理にハズレはない。あんなに高級そうな、腰のあたりの肉を使ったステーキを白飯の上に乗せて、一気にかっ込むと、それだけで幸せいっぱいになる。


 柔らかい食感と、脂の甘みもあってすごくジューシーなのだ。


 かつて、肉汁を飲むという、今では考えられないような健康法が存在したという話を聞いた事がある。


 サーロインステーキを噛みしめた時に溢れ出す肉汁のうまみを知ってしまうと、健康に効くかどうかはともかく、どんどん食が進むのはまず間違いない。


 ミオは相変わらず牛肉には興味を示さず、サーモンを混ぜ合わせたサラダや、はものフライなどをおいしそうに食べていた。


 食後のデザートにはショートケーキと、フルーツ山盛りのタルトを一つずつ取り、洋風スイーツも充分に堪能。


 二日目のディナーバイキングも、大満足の結果に終わった。


「ごちそうさまでした! 今日もいっぱい食べちゃった」


「カツオもだけど、洋食もおいしかったね」


「うん。ボクが好きだったのはパエリアかなぁ、エビと貝がたくさん乗ってるご飯」


「ああ。あれは特に、アサリの香りと食感がよかったな。ご飯ものに、ああいう変わり種のメニューを食べるのもいいもんだね」


「そだね。初めて食べたものばっかりだったけど、全部おいしかったよー」


 うまいものをたくさん食べて満足したのだろう、ミオはルームウェアから手を突っ込み、胃を落ち着けるかのようにお腹をさすっていた。


「さて。そろそろいい時間だし、ぼちぼちカラオケルームに行こうか?」


「うん、行こうー。レニィ君たち、来てくれるといいね」


 来てくれるといいね、か。確かにそうだよな。


 レニィ君たちは自分で両親と話をつけると言っていたが、そのご両親次第では、土壇場でストップがかかるおそれもあるのだ。


 俺たちは、カラオケルーム利用開始の時間十五分前に、三階にある受付へと向かい、そこで必要な手続きを全て済ませておいた。


 あとは待合の椅子に座って、如月兄弟が来るのを待つだけである。


 ミオは俺が持つカゴに入ったマイクやタンバリン、そしてなどを、興味深げに見ている。


 マイクは言うまでもなく、カラオケで歌うために必要なものだ。


 タンバリンは、まぁ場の盛り上げ用として、ホテル側が気を利かせて用意してくれたのだろう。


 だが、カラオケ初体験のミオにとっては、デンモクとは何をする機械なのか分からないのである。


「お兄ちゃん、これ何に使うの?」


「ん? そうだなぁ。簡単に言うと、歌いたい曲をこれで探して、カラオケの機械に注文したり、予約しておいたりするんだよ」


「へぇー。カラオケって予約もできるんだね」


「そうそう。他の人が歌っている間に予約しておけば、すぐ次の曲が歌えるからね。制限時間をうまく使うために、予約はしておいた方がスムーズになるのさ」


「なるほどー。お兄ちゃん、カラオケにも詳しいんだね」


「まぁね。学生時代とか、会社の仲間に混じって合コンした時にはよく行ったからなぁ」


「合コン?」


 しまった、今のはヤブヘビだった!


「合コンってなーに?」


「えーとな。早い話が、男数人、女数人で会う飲み会というか」


「ふーん……」


 案の定と言うか何と言うか、女という単語を耳にしたミオが、ジト目で俺の顔を覗き込んでくる。

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