夜遊びの約束(8)

 この際、男か女かなんて、正直どっちだっていいんだ。


 俺みたいな奴を心から好きでいてくれる子が、たまたま男の子で、その男の子と一緒に暮らすうちに、俺も好きになっただけのこと。


 ミオとは年の差が十七もあるから、ほんとに恋愛関係を持ってもいいのかと思う時もあるけれど、それでも俺はミオが好きだ。


 だからこそ幸せにしてあげたいと思うし、絶対に浮気なんかはしないと約束もできる。


「大丈夫。俺が好きなのはミオだけだよ」


「ありがとうお兄ちゃん、ボクも大好きだよ……」


 頭を撫でられて幸せな気分なのか、ミオは恍惚の表情で何度も頬ずりをした。


「さ。晩ご飯を食べて、カラオケしに行こっか」


「うん。今日は和食じゃないのを食べるんだよねっ」


「そうだったね。昨日が和食ばかりだったから、今日は洋食にしたいかな」


「ボクも洋食がいいなぁ」


「じゃあ決まりだね。そのついでに、カツオも食べるって事で」


「そだね。初めてのカツオ、すごく楽しみー」


 魚が好きなミオがカツオを食べたことがないってのはちょっと意外だったけど、確かに、なかなか食べる機会はないんだよなぁ。


 この島みたいに、カツオを売りにしている観光地で食べるんだったらまだしも、日常生活の中で「今日はカツオ料理にしよう」なんて思い立っても、魚市場にでも行かない限り、なかなか新鮮なカツオは手に入らないだろうし。


 だから今夜は、ミオが満足いくまでカツオを食べさせてあげたい。


 この時期は旬ではないというのが惜しいところだけど、それでも昨晩食べたカツオのたたきはかなりおいしかったから、きっと満足してくれるだろう。


 うっかり忘れる事のないように、食事券を財布に忍ばせ、俺たちは地階のバイキング会場へと向かう。


 さすがに夕食時のピークだからか、会場は人、人、人の大盛況だった。


 この中でレニィ君たちを探すのは大変だなぁ、というかあの兄弟はこの時間に来ているのかどうかも分からないな。


 プレートに各料理を盛りながら周囲をキョロキョロと見回してみたが、それらしい家族連れは見当たらない。


 できればあの子たちの両親に一言挨拶をしておきたかったが、あれだけ人に会いたがらないんじゃあ、きっと時間をずらして来るんだろう。


 くだんの説得についてはレニィ君に任せるって話になったんだし、あんまり気にしたって仕方ないよな。


 今は目の前にある、うまそうな洋食料理の盛り合わせとカツオのたたきをいただく事に集中しよう。


「カツオ、すごくおいしーい」


 ミオが、初めて食べたカツオのたたきに舌鼓を打っている。


「タレとの相性がいいだろ?」


「うんうん。口の中で、かぼすのいい香りがするの」


 生姜と、島の特産品であるかぼすの果汁が混ざり合って、爽やかな味わいが楽しめる。


 あっさりとしていて食べやすいし、夏バテした時なんかにもよさそうだよな。


 そういう意味では、カツオはこの七月でも旬だと言えるのかも知れない。

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