夜遊びの約束(4)

「まぁ分かるよ。俺もこれだけはダメだってのはあるしね。臭いがきついやつとか」


「お兄ちゃん、臭いがきついってどんなの?」


「んーとな。納豆とかは大丈夫なんだよ。でも、ドリアンだけは無理だったな」


「ドリアン?」


「そう。果物なんだけどね、皮のあたりからネギが腐ったような変な臭いがしてさ、結局一口も食べられなかったよ」


「えぇーそんな臭いがするの? じゃあボクも食べたくないなぁ」


「そうそう。嫌なものは無理に食べるもんじゃないよ。それに、ドリアンなんて日本じゃめったに売ってないしね」


 対面に座っているレニィ君が、ミルクティーで満たされたグラスを両手で包むように持ち、コクコクと何度も頷く。


 弟のユニィ君に魚嫌いを暴露された事について、誰にでも好き嫌いはあるっていうフォローを入れる意味でもドリアンの話題を出したんだけど、あの臭さは、ほんとに好きな人じゃないと食べないから。


 年端も行かぬ子供の野菜嫌いを克服するとかならともかく、その人の本能で「これは食べたくない」って思ったものは、無理して食べても、たいてい良い結果にはならない。


 それが二十七年生きてきて、身をもって分かっているからこそ、俺は人に無理強いはしないのである。


 今のところ、うちのミオには、さっき話題にあげたドリアン以外に、そういう苦手そうな食べ物は無いようだけど。


「ねぇお兄ちゃん、カラオケルームって何時からやってるの?」


「館内施設の案内によると、平日の今日は夕方の五時から営業開始なんだってさ。つまり、今からでも行けるって事だね」


「そうなんだー。でもカラオケルームってどこにあるの?」


「三階にあるらしいよ。確か、外の景色を眺めながら歌えるのが売りだって書いてあったな」


「という事は、オーシャンビューなんですね。すごく素敵です!」


「え?」


「ぼくたちの泊まってる部屋からじゃ、海なんてぜーんぜん見えなかったもんねぇ」


「いや、オーシャンビューかどうかはまだ……」


 行ってみないと分からない、と言いかけて、俺は口をつぐんだ。ここで、あんまり夢のない話をしてがっかりさせるのもな。


 カラオケルームに着くころには、どうせ日が落ちてで真っ暗だから海なんて見えないのだろうが、たぶんホテル側にも、窓からの眺望に関しては何らかの算段があるのだろう。


「でも、窓があるんだったら、そこから音が漏れちゃうんじゃないの? お泊まりしてる人に聞こえちゃわないのかなぁ」


 期待に胸を膨らませている如月兄弟をよそに、ミオが鋭い指摘をする。

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