再会、そして(10)

「僕、未央さんが羨ましいです。柚月さんみたいな、こんなに優しいお父さんが一緒にいてくれて」


「ん? どういう事?」


 ミオがすかさず聞き返す。


 この問いには、なぜ自分が羨ましがられているのか、という件と、俺がミオの父親だと思い込んでいる理由を尋ねているのだと推察される。


 そりゃミオは、俺の事をずっとお兄ちゃんだと思って慕ってくれてるんだから、お父さん扱いには違和感を抱くよな。


 さっき、ミオの事を「俺の子だよ」と紹介したのがまずかったかなぁ。


 という俺の反省をよそに、レニィ君は話を続ける。


「僕のパパとママは考古学者をやっていて、一年中、世界中を飛び回っているんです。だから、いつも家にいるのは僕と弟、それから家政婦さんの三人だけになっちゃって」


「ご両親は世界のあちこちで働いてるのかぁ。じゃあ、なかなか会えないんだね」


「はい。それで、今日と明日だけはお休みが取れたから、みんなで旅行しようって話になったんです。だけどホテルに着いたら、パパもママもお部屋にこもりっきりになってしまいました」


「って事は、あの時ボール遊びをしていたのは、弟くんと二人だけで?」


「そうなんです。パパに『私たちには仕事もあるし、疲れているから、二人だけで遊んできなさい』って言われて、仕方なく……」


 レニィ君はそこまで話すと、もう次の言葉を絞り出すのも辛い様子で、肩を落としてうなだれてしまった。


 この子は今日という日をさぞや楽しみにしていたんだろうに、それがこんな結果ではあまりにも気の毒すぎて、俺も何て声をかければいいのかが分からない。


 捨て子になり、天涯孤独の身だったミオは言うまでもなく不幸を背負わされてきたんだけど、親がいるからといって、必ずしも幸せな家庭を築けるとも限らないんだ。


 かわいそうにな、なかなか予約が取れないホテルに来て、ようやく、待ちに待った家族水入らずだからと期待を寄せていたんだろうに。


 住み込みで働く家政婦さんを雇ったり、このホテルに一家四人で二泊分の予約を取るだけの経済的余裕があっても、レニィ君が一番欲しかったのは、大好きな両親から注がれる愛情だったんだ。


 俺も、他人の家庭内事情に物を申せるほど人間はできちゃいないが、今、この子が置かれている状況が、決して喜ばしいものではない事くらいは分かる。


 だからこそ、何とかしてあげたいという気持ちが込み上げてくるのだ。


「お兄ちゃん」


 しばらく沈黙が続いた後、俺の隣でジッと話を聞いていたミオが、小声でささやいてきた。

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