再会、そして(5)

「後は、しぐれ煮を探してるんだけどな」


「しぐれ煮?」


「そう。昨日の夜、俺が食べてた牛肉のやつだよ」


「んー。しぐれ煮かは分かんないけど、何だか高そうなのはあっちの方にあったよ」


 ミオが指し示した先に行ってみると、ガラス製ショーケースが二つ、隣り合わせて並んでおり、その中には、魚や肉類などのみやげ物がいくつか展示されていた。


 ショーケースを覗き込んで、お目当ての品を探していると、少し大きめな瓶詰めにされたしぐれ煮を発見。


 蓋の部分には色鮮やかな紙を被せ、赤い紐で縛ってあって、それがちょっぴり高級感をかもし出していた。


「あのー、すみません。このしぐれ煮を一つもらってもいいですか?」


「はい。ありがとうございます。こちら千五百円になっております」


 おや。島のブランド牛で作ったみやげ物にしては、思ったより安いな。


 この瓶のサイズだと三百グラムは詰められているようだけど、それにしては良心的な価格設定だ。


 ちょうどここにレジがある事だし、みやげ物は全部まとめてお会計してもらおう。


「――以上四点で、お会計が七千円になります」


 四点の内訳は、お菓子の亜麻色うさぎが二箱、佐貴島牛さきしまぎゅうのしぐれ煮が一瓶、そしてミオが選んでくれたカボカボちゃん人形が一つ。


 税込み価格で七千円なら、まぁこんなもんだろ。


「よーし、おみやげの買い物終わり! それじゃあ、一旦部屋に戻ろっか」


「うん。お荷物を置いて、お着替えしなきゃだもんね」


 品揃えが豊富な売店を後にした俺たちは、エレベーターで五階へと上り、クーラーのよく効いた、自分たちの客室へと戻って来た。


「ふぅー。ようやく人心地ついたな」


「今日はたくさん遊んだねー。ボク、すごく楽しかったよ」


 今まで体験した事のなかった海水浴やマリンアクティビティに触れ、ミオも満足げだ。


「あ。そういやミオが言ってた、ウミガメの事調べなくちゃだな」


「うん、アオウミガメは青いのかなってお話だよね?」


「そうそう。晩ご飯まではまだ時間はあるから、今のうちにササッと調べちゃおう」


 ルームウェアに着替えた俺たちは、スマートフォンを使い、ネットでアオウミガメに関する情報を探す。


「えーとな。このサイトによると、アオウミガメって名前の由来は、食べているエサの色素が脂肪に反映されるから、らしいな」


「色素?」


「うん。アオウミガメは基本的に海藻とかを食べるんだけど、その海藻の色が体の中にある脂肪に付くんだってさ」


「体の中なんだ? じゃあ、グラスボートで見たアオウミガメが青く見えたのって……」


「あれは海の水が青く澄んでたから、そう見えたんだろうね。もっと近くに寄るか、陸に上がったら、こういう色になるんだよ」


 と、調べたサイトに貼り付けてある、アオウミガメの画像をミオに見せてみた。


「なるほどー。どっちかと言うと、少し茶色っぽいんだね」


「そういう事。これで日記に書くネタが一つできたな」


「うん! 調べてくれてありがとね、お兄ちゃん」


 自分なりのお礼のしるしなのか、ミオはスマートフォンを持つ俺の手に、すりすりと頬を寄せてくる。


 さみしがり屋な子猫ちゃんは、心を許した俺にだけ、こんな風にめいっぱい甘えてきてくれるのだ。


 そんな愛おしいしぐさを見て、そして触れ合うたびに、俺の心と体の疲れが癒やされ、そのつど元気が湧いて出てくるんだから、ほんとに不思議だよなぁ。


 これが愛の力というものか。

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