リゾートホテルの昼休み(4)

「お兄ちゃん、これ何のお魚?」


「んー? 何だろ。見た目からして、たぶんカンパチかブリだと思うけど」


「食べてみるね。いただきまーす」


 ミオは青魚らしき刺身に醤油とワサビを付け、口に運んでもぐもぐと噛みしめる。


「あ! おいしーい」


 よほど美味だったのか、うちの子猫ちゃんは左手を頬に当て、おそらく初めて食べたであろう魚の刺身の味に感動している。


「身がちょっと甘くて、プリプリした感じがすごくおいしいよー」


「へぇ。じゃあやっぱりカンパチなのかな?」


「カンパチって見たことなーい。どんなお魚?」


「カンパチは青魚の一種でね、ミオの好きなアジの仲間なんだよ」


「え。そうなの?」


「うん。でもアジよりも大きい魚で、確か、頭の両サイドに斜め線があって、正面から見ると間に八の字を描いているように見えるから、間八かんぱちって言われるらしいよ」


 と説明しながら、俺は指で漢数字の八を書いてみせた。


「漢字の八なんだねー。カンパチって魚釣りでも釣れる?」


「うーん。カンパチを狙うんだったら、一番確実なのは船釣りだろうなぁ。でもすごく大きな魚だから、ミオにはまだ難しいかもね」


「そんなに大きいの?」


「大物は一メートルをゆうに超えるからな。まだカンパチが小さいうちなら、おかからでもチャンスはあるかも?」


 カンパチはまるで出世魚であるかのように、サイズが小さいうちは別名で呼ばれるから厳密にはカンパチではないのかも知れないが、それでも、釣り上げた時の喜びはひとしおだろう。


 ミオがもう少し大きくなったら、大物釣りにも挑戦させてあげたいな。


「サーモンのお刺身もおいしいなー」


「ふふっ。ミオはほんとに魚が好きなんだね」


「うん! 小さい時から魚はずーっと好きだよ」


 今でも充分小さいんだけど、たぶんミオは、物心がついた時から今に至るまで、知り得た魚はことごとく愛してきたんだろう。


 ただし食材として。


 さて、カンパチの説明も終わった事だし、俺もこっちの茶碗蒸しをいただくとしますか。


 思い返せば、茶碗蒸しを食べるのはずいぶん久しぶりになるんだなぁ。


 家に帰って飯を食う時は、買ってきた惣菜に茶碗蒸しが並ぶ事は無かった。


 蓋を開けた時に見える、彩りと香りが引き立つ三つ葉や椎茸、それから独特な匂いと食感の銀杏ぎんなんなんかの、茶碗蒸しを盛り立てる具は結構好きなんだけど、白飯のおかずにはならないからなぁ。


 俺が勝手にそう思っているだけで、ひょっとすると他の人は、茶碗蒸しをオン・ザ・ライスして食べているのだろうか。


 もしくはデザート的な立ち位置?


 うーん。考えれば考えるほど、俺は茶碗蒸しの奥ゆかしさを理解できているのか分からなくなるな。


 お次の合鴨のロースだが、こちらはおそらく燻製くんせいにしてあるのだろう。


 切り身にブラックペッパーがまぶしてあって、ピリ辛でいい香りがするし、肝心の食味の方も、しっかりとした塩味がついているので、非常に味わい深い。


 これとロールキャベツだけでご飯がどんどん進んでしまう。

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