リゾートホテルの昼休み(3)

「ねぇお兄ちゃん」


「ん?」


「ご飯を食べ終わったら、どっちから先に乗るの?」


 というミオの質問は、昨日の作戦会議で乗ることに決めた二種類のボートのうち、どちらを先に楽しむのか、という事を尋ねているのだ。


 まず、一つ目がペダルボートで、これは足漕ぎで動かすタイプのもの。


 プライベートビーチの、海水浴客たちが泳いでいる区画から離れたエリア内で、足でボートを漕いで遊覧するという遊びである。


 そしてもう一つがグラスボートで、これは沖合いまでゆっくりと船を走らせ、船の中央にあるガラスから海底を覗き、魚やサンゴ礁などを眺めて楽しむ事ができるサービスだ。


 いずれも水には濡れずに済むボートで、かつ、子供のミオにも危険が及ばない安心なアクティビティなので、昼からはこの二つのボートに乗ろうと決めたのである。


「んーとな。このパンフレットによると、グラスボートの出航時間はスケジュールが決まってるから、だいたい一時間おきに乗れるかどうかが決まるらしい」


「え? 乗れなかったりするの?」


「定員があるからね。例えば二十人乗りのボートに、俺たちより先に待ってる人が二十人いたら、また一時間待たなきゃいけないんだよ」


「そうなんだ。じゃあ、空いてそうな時間を選んだほうがいいのかなぁ」


「それはあるかもね。もしくは、グラスボートに乗る予約をしておくとかだな」


「予約できたらいいよねー。その時間までに他の事をして遊べちゃうんだもん」


「そうだね。じゃあご飯を食べたら、まずはグラスボートに乗る予約ができるかどうかをチェックしに行こうか」


「うん。楽しみだなぁ」


 などと、午後から楽しむアクティビティなどについて話し合っていると、ウエイターさんが料理と飲み物を運んできた。


「ご注文は以上でよろしいですか?」


「はい、とりあえず以上で」


「それでは、ごゆっくりどうぞ」


 特にデザートなどを追加で頼む予定はないのだけど、「とりあえず」と答えてしまうのは、居酒屋なんかに行った時のクセかな。


 俺が注文した和洋御膳には、白飯ではなく炊き込みご飯が盛られていた。


 そして肝心のおかずだが、まずほうれん草と枝豆、マッシュルーム、そして細かくカットしたベーコンをオリーブオイルで和えて、ほんのり塩味を付けてあるサラダが一つ。


 それから茶碗蒸しと、小皿に乗った一口サイズのロールキャベツや、三切れの合鴨ロースに、トマトソースで煮込んだ豚肉などが食卓を彩る。


 輪切りにされたパイナップルは、おそらくデザート枠なのだろう。


 普段はこういう上品な料理を食わないので新鮮に感じるし、何よりうまそうだ。


 朝は海水浴で思いっきり体を動かしたから、とにかく腹が鳴って仕方がない。さっそくいただくとしよう。


「うん、このサラダはうまい!」


 前菜のサラダに思わず舌鼓したつづみを打ってしまったが、とにかくうまいものはうまい。


 オリーブオイルにじっくりと浸してあるせいか、ほうれん草のシャキシャキ感こそは無いが、ここに茹で上がった枝豆をプラスしてあるので、食感としては申し分ない。


 そして何より、ベーコンの塩味が他の食材を引き立てているため、どんどん食が進む。


 これだけでご飯のおかずになりそうだ。


 一方ミオの方は、小鉢に盛り付けられた刺身を箸でつまみ、しげしげと興味深げに眺めていた。

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