初めてのディナーバイキング(6)

「このお団子ってどうやって食べるの?」


「手で食べてもいいよ。ゴマをまぶしてあるけど、油でベタついてたりはしないから」


「そうなんだ。じゃあ手でいただきまーす」


 ミオは片手で胡麻団子を持ち、少しかじる。


 すると、噛み切られた部分からはしっかりされたと、ホクホクの湯気が出てきた。


「はふはふ。これ熱いよお兄ちゃん」


「みたいだね。どうやら作りたてだったんだなぁ」


「何だかこのお団子、あんこの色が違うよー」


「どれどれ?」


 俺もプレートに乗っけた団子を箸で切り分け、断面を確かめてみる。


 ミオの指摘する通り、これは一般的な小豆あずきを使った餡の色ではないな、多少ベージュがかっているので、白餡しろあんというわけでも無さそうだが。


 とりあえず食ってみるか。


 俺は半分に切った団子を箸でつまみ、ふうふうと息を吹きかけ、よく冷ましてから口に運ぶ。


 あ、これはすごく甘い! そしてうまい!


「餡こにコクがあって、すごく上品な甘さになってるな。これは小豆じゃないね」


「そうなの?」


「うん。使ってるのはたぶんはすの実だよ」


「ハスノミってなーに?」


「池とかに咲くお花に蓮ってあるだろ? あれの種だよ」


「あ。蓮なら知ってるよー。レンコンが取れる、綺麗なお花だよね」


「そうだね。中華料理では、その種を餡こにするんだけど、まさかバイキングでこんな本格的なものが食えるとは思わなかったな」


「高そうなものなの?」


「ここまで本場の胡麻団子みたく忠実に作るまでには、かなり手間がかかっているのは間違いなさそうだから、そういう意味では高級なのかも」


「ふーん。お団子もモチモチしてておいしいね」


 よほど団子がおいしかったのか、普段は猫舌のミオでも、丸ごと一個をみるみるうちに平らげてしまった。


 食べ放題のバイキングで、地元の名産品を使った和食だけならともかく、洋食や中華の作り方にまで一切妥協しないスタイル。


 このホテルが常に大人気で、予約が埋まるのも分かる話だ。


 はぁ、今度こそ腹いっぱい、そしてうまいものをたくさん食べられて幸福感もいっぱい。


 最後に残る杏仁豆腐もシロップまで飲み干したミオは、満足そうな顔でお腹をさすっていた。


「ごちそうさまでした! もうほんとにお腹いっぱーい」


「いろんな料理が食べ放題なのは嬉しいけど、ここまで豊富な品揃えだと、逆に何を選んでいいのか分かんなくなるな」


「うふっ、そだね。じゃあ明日は洋食にしてみる?」


「お、それいいアイデアだな。んでデザートは好きなのを取る感じで」


「うんうん!」


 ミオが手を合わせながら、大きく頷く。


 そうだ。せっかくの連泊なんだから、一日で全部を詰め込もうとは思わずに、次の日には違う料理を選んで食べてみよう。


 しかし今更だが、佐藤の奴、ここまで有名で大繁盛だいはんじょうしているホテルの、しかも眺めのいい部屋を、よく二泊分も続けて予約できたもんだな。


 もはや執念と言うべきだが、あいつのあの女の子にかける情熱と根気強さは、俺も少しは見習った方がいいのかも知れない。



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