作戦会議(1)

 ――ディナーを食べ終えて腹いっぱいになった俺たちは、再びコインランドリーへ向かい、洗濯の終わった服を乾燥機に入れる。


 いずれも生地の薄い夏服なので、表に干しておけば明日までには乾いていたかも知れないが、あいにく現在の天候は雨だ。


 ずっと部屋干しすると変な臭いが付きそうだし、やはりカラッと乾かしておきたい。


 乾燥機に入れた衣服が乾くまで二十分はかかるので、それまで、ロビーラウンジでお茶をする事にした。


 俺が頼んだのはアイスコーヒーで、かたやカフェインを摂ると眠れなくなるお子様のミオは、大好きなオレンジジュースを注文する。


 このラウンジでは、今の時期が最も旬であるパイナップルを使ったケーキが一押しの商品だったようだが、さっきディナーでたらふく飯とスイーツを食ったばかりなので、飲み物だけにしておいた。


 窓側の席に座った俺たちは、ひっきりなしに窓に打ち付ける雨粒を横目にしながら、いろんな話をする。


「お兄ちゃん、コーヒーって苦くない?」


「んー。苦いかな。砂糖を入れないと確かに苦いよ」


「お砂糖を入れてもいいの?」


「うん。砂糖とか、アイスコーヒーの場合はガムシロップを足してもいいけど、俺はコーヒーはミルクだけって決めてるんだよね」


「ふーん。苦いの嫌じゃないんだ」


「苦いけど、コーヒー豆を挽いて作ったコーヒーはすごくいい香りがするし、ミルクを入れるとまろやかになるから、うまいって感想が先に来るかな」


「それって、喫茶店に行った時みたいな匂い?」


「そうだね。ここも豆を挽いてコーヒーをれてくれるみたいだけど、アイスコーヒーだといまいち香りが立たないんだよなぁ」


 何だか小難しい事を言っているように聞こえたのか、ミオが首を傾げて考えるしぐさを見せた。


「お兄ちゃんは、どうしてコーヒーを飲むようになったの?」


「んっ? そう言われると、パッと思い出せないんだけど……初めて飲んだのは、確かミオよりも小さい歳のころに、親戚の家で出されたアイスコーヒーだったと思う」


「それも苦かった?」


「いや、親戚のおばさんが気を利かせて甘くしててくれたから普通に飲めたよ。けど、その後が大変でさ」


「うん」


「コーヒーに入ってる成分のおかげで目が冴えて、その日は夜中の一時になっても眠れなくてね。怖くなって、めそめそ泣いちゃったんだ」


「そうなんだ……お兄ちゃんかわいそう」


 ミオが悲しそうな顔をする。


「その時にボクがいたら、お兄ちゃんを抱っこしてたくさんなでなでして、寝ちゃうまでずっと一緒にいてあげたのになぁ」


「ふふ。ミオは優しいね」


 そう言って俺は左腕を伸ばし、手の甲でミオの頬をそっと撫でた。


「そんな事ないよー」


 と謙遜けんそんしつつも、撫でられたのがよほど心地よかったのか、幸せそうな表情で、伸ばした俺の手にすりすりと頬を寄せる。


 やっぱりミオは、何から何までかわいいなぁ。


 こうして撫でたり、甘えられたりするのはいつもの事なのだが、今日は特に、年の離れた恋人とイチャイチャしているような気持ちになる。


 旅先で解放感が強くなったせいかなぁ。


 それとも、ミオが昼間に縁結びの神社でお参りした事へのご利益が、さっそく出始めているのか。


 だとしたらすごい神様だし、もっと評判になっているはずだから、たぶんこの感覚は、俺がミオの中にある〝女の子らしさ〟を意識しすぎているだけだろう。


 たぶん。

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