二人の名所めぐり(8)

 アイスクリームは本来冷たいものであるため、とにかく舌が冷える。


 で、その冷えた舌のままだとアイスの甘みなどを感じる機能が鈍化するので、常温のウエハースを食べる事で、舌を温め、感覚をリセットする狙いがあるのだそうだ。


 別にウエハースじゃないとダメ、というわけでもなく、常温で、かつアイスとは口当たりが違うものなら、クッキーやワッフルでもよいらしい。


 ただ、ウエハースやワッフルにすれば、クッキーよりもコーンに加工しやすい。


 そのため、ソフトクリームを支えるコーンには、ウエハースやワッフルを素材に使っているのだろうと思われる。


「あまーい」


 ロールケーキを一口食べたミオが、幸せそうな顔でほっぺたを押さえている。


「酸っぱくないの?」


「ちょっとだけ酸っぱさみたいなのはあるけど、クリームはすごく甘くておいしいよー」


 酸味はあるけど甘い。


 という事は、つまりかぼすは色付けと香り付けのためだけに、皮の部分のみを練り混ぜたのかな?


 そのセンが濃厚だな、せっかくのロールケーキが酸っぱくなってしまったら、商品として売る前にストップがかかるだろうし。


 さて、俺もこのソフトクリームからいただくとしますか。


「おお、パフェもしっかり甘いな」


「やっぱり?」


「うん。酸っぱさがほとんど無いよ。かぼすのいい香りが口の中で広がる感じだね」


「そうなんだー。ねぇねぇお兄ちゃん」


「ん?」


「ボクのロールケーキと分け合いっこしない?」


「いいよ。じゃあケーキの横にアイス乗っけてあげるね」


「うふっ。ありがと」


 ロールケーキの隣に小盛りのソフトクリームも加わり、ミオもホクホク顔だ。


「お兄ちゃんもロールケーキ食べてね。そうだ、またする?」


「お、俺は後で食べるからいいよ。少しだけもらっておくね」


「うん。食べて食べてー」


 ふぅ、焦ったよ。


 ミオにあーんして食べさせてもらうのは嬉しいけど、お店も他の席が埋まってきたし、周りの客の目線が気になるからなぁ。


 しかしロールケーキもうまいなー、スポンジもしっかり甘くて香り高く、クリームとの相性が抜群にいい。


 パフェはパフェで、アイスクリームを取り巻く、常温の生クリームがまたいい味を出している。


 こんなに甘くておいしいスイーツに囲まれる機会はなかなか無いから、今のうちにしっかり味わっておかないとな。


「これ、レモンのサイダーみたいな味がするー」


 とは、この店オリジナルの飲料、かぼすサイダーを飲んだミオの感想である。


 要するに甘酸っぱいって事なのかな?


 俺も一口飲ませてもらったが、確かに酸味の強さはレモンに近いかも知れない。


 かぼすの味わい自体も、甘いサイダーにアクセントとして加えたくらいのものなのか、言うほど主張が強くない。


 どちらかと言うと、炭酸の強いレモネードにかぼすの果汁を足してみた感じ?


 だとすると、ミオが抱いた感想の「レモンのサイダーみたいな味」というのも分かる話だ。


 ……ちなみに、先ほどサイダーを飲ませてもらった時に使ったストローはミオのものなので、俺はミオとをしたという事になる。


 その話をすると、恋愛願望の強いミオが俺とのキスについて語りだして大事おおごとになりそうなので、あえて黙っておいた。

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