いざ、リゾートホテルへ(9)

「じゃ、入ろっか」


「うん。楽しみだねー」


 ホテルのエントランスを通り抜けると、右の方には、モダンなインテリアで、落ち着いた雰囲気のロビーラウンジが広がっていた。


 おそらく、ここは喫茶店として営業していて、コーヒーや紅茶、そして季節のスイーツなどが楽しめるのだろう。


 ロビーの床一面や壁、柱などの内装には、ピカピカに磨き上げられた大理石が用いられていて、いかにも高級感あふれる造りになっている。


 そのロビーのずっと奥にあるカウンターが、このホテルのフロントのようだ。


 現在の時刻はお昼の二時を少し回ったくらいで、ほぼ予定通りの到着となった。


 さっそくチェックインして、泊まる部屋を案内してもらおう。


「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」


「お世話になります。二時から予約していた柚月と申しますが……」


「柚月様ですね、承っております。恐れ入りますが、こちらにお名前とご住所をお書きいただけますでしょうか?」


 よかったぁ、ちゃんと俺とミオの名前で予約が通ってた。


 俺は出された宿帳に、黒が基調で、芯を出すボタンと先端が黄金に輝く、ホテルの名入りボールペンで記入していく。


 別にやましい事情があるわけでもないし、すでに予約の時点で名前は知られているので、偽名や偽の住所を書く意味はないだろう。


「ありがとうございます。柚月様、この度は二名様のご宿泊で、二泊されるというご予定でお伺いしておりますが、間違いはございませんでしょうか」


「はい、二泊でお願いします」


「かしこまりました。それでは本日から、五百十五号室のお部屋をご用意させていただきます」


 フロントの人はそう言い終えると、部屋番号の書かれた特殊なカギと、パウチされた折りたたみ式のホテル案内を差し出した。


「こちらが柚月様がお泊まりになるお部屋のカギとなっております。お出かけの際はお預かりさせていただきますので、フロントの方へお声掛けください」


「えと、門限とかはありますでしょうか?」


「当ホテルは特に門限は設けておりませんが、セキュリティ上、午前零時には玄関の方を施錠させていただくことになっております」


「じゃあ、午前零時を過ぎた場合は……」


「フロントの方に従業員が二十四時間常駐しておりますので、お帰りが遅くなる場合は、玄関のインターホンでお呼び出しください」


「はい、よく分かりました」


「ありがとうございます。それでは、こちらが昼食券と、当ホテルの各種施設やインターネット接続のご案内になります」


 フロントの人がホテル案内を開くと、そこにはまるで紙幣のような形をした昼食券が二枚と、Wi-Fi接続でネットに繋ぐためのパスワードなどが書かれた紙が挟まれていた。


 そういや佐藤の奴、このホテルには昼食券込みで予約したって言ってたな。


「昼食券の方は、当ホテル地階のレストラン〝翔風楼しょうふうろう〟でご利用いただけます。ご夕食につきましてのご案内ですが――」


 ――と、フロントでホテルの各設備やアメニティ、食事などの説明を聞き、およそ十分に渡る宿泊の手続きがようやく完了した。


 じっと待つのがよほど退屈だったのか、隣でミオがあくびをしている。


 チェックインの手続きが終わるタイミングを見計らって、俺たちの横で待機していた荷物運びのポーターさんが、にこやかな表情で声をかけてきた。


「それでは、お部屋までご案内させていただきます」


 ナイスミドルで背が高く、体格もガッシリとしたポーターさんは、俺とミオが持っていた荷物を受け取り、きらびやかな装飾のついた台車に軽々と乗せていく。


 ミオのはともかく、俺のキャリーバッグは相当重いだろうに、さすが、力仕事に慣れていそうな体をしているだけある。

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