いざ、リゾートホテルへ(8)

 窓から見える景色についていろいろ話をしていると、前方にそびえる大きな建物が、徐々に姿を表し始めた。


「ご乗車お疲れさまでした。当バスは、間もなくホテルに到着いたします。どなた様も、お忘れ物のございませんよう……」


「ミオ、あれがホテルなんだって。見てごらん」


「わぁー、大きいね。パンフレットで見てたのよりずっと大きく見えるー」


 ミオが驚くのも無理はない。いざ実物のホテルをこの目で見ると、そのたたずまいは、まさに〝壮観〟の一言に尽きる。


 俺たちがこれから泊まるジャパン・エリオット・スターホテルは、客室の階層だけでも七階はある。


 そしてホテルの横幅がとてつもなく広いものだから、一階ごとの客室も相当な数になるのだろう。


 バスのモニターで放映されていたホテル案内によると、総客室数は何と、二百八十七室もあるそうだ。


 ここは一部屋あたり四人まで宿泊可能との事なので、仮に、全部の部屋が四人で埋まったら、宿泊客の数は千百五十人近くにまで上る。


 しかも夏場のハイシーズンは、その客室が連日の満室になるのだと言うのだ。


 そういう事情を鑑みて、佐藤の奴は相当粘り強く、半年前から予約サイトに張り付いていたんだろうな。


 その数ある客室の中で、佐藤は、オーシャンビューを楽しめる部屋を予約できたと言っていた。


 つまり、俺たちは割と上の方にある客室に泊まる事になるのかな?


 最上階はスイートルームらしいから、たぶんその下なのだろうとは思うけど。


「ふぁー、着いた着いた。船着き場から結構あるんだなぁ」


 バスから降りた俺は手を組み、上にかかげてぐっと伸びをする。


 ミオはホテルのあまりの大きさに圧倒されたようで、口をぽかんと開けたまま、高くそびえる建物を見上げていた。


 まぁそういう反応になるよな。


 ここまで大きな建造物を生で初めて見ると、ミオだけに限らず、観光客の多くが似たようなリアクションを取るだろう。


 しかもホテルの庭には、宿泊客だけが利用できる広大な屋外プールまであるのだ。まさにリゾート施設として至れり尽くせりではないか。


 プライベートビーチでは泳ぐもよし、アクティビティに参加して遊ぶもよし。


 堤防の方に行けば、釣り道具やエサが一式レンタルできるから、ミオが好きな魚釣りも楽しめる。


 とにかく、このホテルは客を喜ばせるためのサービスを盛りだくさん用意してあるという事。


 そりゃあ、半年前から予約が埋まるのも分かる話だ。


 さて、せっかくだから記念に写真でも撮っていこう。


「ミオ、こっち向いて」


「……ん? なぁに?」


「ホテルと一緒の写真を撮るよー」


 そう言って俺は、リュックを胸に抱くミオと、ホテルの外観を写真に収めた。


「お兄ちゃん、撮れた?」


「撮れたことは撮れたけど、ホテルが広すぎて、フレームに収まり切れないなぁ」


「ねぇねぇ。せっかくなら一緒に撮ろうよ」


「え、一緒に?」


「うん。ボク、お兄ちゃんと一緒に写りたいの」


 そっか、今写真を撮ってるのはスマートフォンだから、インカメラを使えば、簡単に〝自撮り〟ができるんだったな。


「よし。じゃあ、一緒に撮ろう」


「はーい。お兄ちゃんにくっついちゃうよー」


 ホテルの最上階までを写すために、俺たちは中腰の姿勢で体を寄せ合い、ローアングルで写真を撮った。


 うん、今度はいい出来だ。


 ミオにも見せてみたが、ホテルの外観よりも、一枚の写真に二人で収まった事を喜んでくれた。


 今までは、ミオの可憐ですこやかな姿を撮る事ばかり考えていたけど、当のミオは、ほんとは俺と一緒に写りたかったんだな。


 これからは、そういう写真をもっと増やしていこう。

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