夏とプールと日焼け止め(4)

「これはミルクタイプの日焼け止めなんですけど、スーパーウォータープルーフなので、水にはすごく強いです。それからお肌に優しくて、落とす時も石鹸だけで簡単に落ちますから、お子さんにも安心してお使いいただけますよ」


「おー。なるほど」


 俺はすっかり感心してしまった。


 さすがは店員さん、薬の専門店で働くだけあって、その薬に近い分野に関する知識も豊かだ。


 容器もそんなに大きくないし、これならミオも持ち運びがしやすいだろう。


「じゃあ、それください」


「はい、ありがとうございます!」


 店員さんはにっこりと微笑み、商品を手渡した。


 買い物に関しては、俺自身は、そんなに迷わない方だと思っている。


 特に、自分が全く知らない分野の商品を買う時は、すぐに店員さんを呼んで話を聞き、商品をおすすめされた場合は即決で買う。


 ヘタに〝ジャケ買い〟をするよりも、専門家の意見を参考に購入するのがベターだから。


 その結果、少々値段が張る場合もあるが、これまで、そのやり方で地雷らしい地雷を踏んだ事が無い。


 だから、今回の決断もきっと間違いではないだろう。


 という事で、この長い夏を乗り切るために、店員さん一押しの日焼け止めを十本ほど買っておいた。


 うち七本はミオのために、そして残る三本は俺のために。


 俺は夏場になると、外回りの仕事に出かける時は、半袖のワイシャツを着る事になる。


 なので、この機会に顔と首周り、そして腕が焼けすぎないようにケアしようと思い、自分の分も買った。


 家に帰ってご飯を食べ終わったら、ミオと一緒に塗り方の練習をしよう。


「お帰りなさーい、お兄ちゃん!」


 買い物袋を下げて帰宅した俺を、ミオは今日も、元気よく玄関まで迎えに来てくれる。


「ただいま。ごめんなミオ、帰りが遅くなっちゃって」


「んーん、いいの。お兄ちゃんが無事に帰ってきてくれて嬉しいよ」


 ミオはそう言って、頭を撫でようと差し出した俺の手に、すりすりと頬を寄せた。


 その、子猫が甘える時のようなしぐさがとてもキュートで、疲れた体と心が癒やされたような気分になるから不思議なものだ。


「ミオ。今日はね、ドラッグストアで日焼け止めを買ってきたんだよ」


「日焼け止め?」


「うん。明日から、プールで水泳の授業があるって言ってただろ?」


「そだね。明日のお昼前にやるよー」


「日焼け止めは、その時のために塗ってみてほしいんだ。体はもちろんだけど、特に水泳パンツを穿いた時に、足に変な日焼け跡が残らないようにね」


「お兄ちゃん、ボクの足の事を気にしててくれたんだ?」


「かわいいミオの事だからね。水に強くて、肌にも優しくて、プールを汚さないやつをたくさん買ってきたから、ぜひ使ってみてよ」


「うん! ありがとね、お兄ちゃん」


 かわいいと言われたからか、ミオは少しはにかみながら、俺が渡したドラッグストアのレジ袋を受け取った。

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