ショタっ娘と妊娠(5)

「ねぇお兄ちゃんっ」


「……ん?」


「見てみて。ほら、赤ちゃんができたよー」


 頭を抱えて悩んでいた俺は、ミオの声がする方を振り向く。


 すると、そこではミオがシャツごとお腹を膨らませて、ニコニコしていた。


 その様、まるで妊婦のごとし。


 もっとも、その〝ショタっ娘妊婦〟のタネ明かしは至極簡単だ。


 単純に、この間行ったウサちゃんパークで買ってあげたぬいぐるみを、シャツの中に入れているだけなのである。


「ウサちゃんも、お兄ちゃんに守って欲しいって言ってるよ」


「って、ウサちゃんはミオの赤ちゃんなのかい?」


「うん。ボクがお兄ちゃんのお嫁さんになったから、ウサちゃんが赤ちゃんになったの」


「待った待った。俺たちはまだ結婚してないじゃん」


「じゃあ今からするー」


「あのなぁ。おままごとじゃないんだから、そんなに簡単にできるもんじゃないの」


「むー」


 ミオがつまらなそうに口をとがらせる。


「どうしたら結婚できるの?」


「え? そうだなぁ、ミオがもう少し大きくなったら、かな。とにかく今は結婚できないんだよ」


「そうなんだ。じゃあボクが大きくなったら、お嫁さんにもらってくれる?」


「俺が?」


「うん。お兄ちゃんが」


「ミオ。『大きくなったら』って、いつの事のつもりで言ってるの?」


「えっと、来年の誕生日かなぁ」


「おいおい。そりゃちょっと早すぎないかい?」


「そんな事ないよー」


「ミオ、悪いけど俺は……」


「お兄ちゃん、ボクじゃ……ダメ?」


 あぁ、その〝澄みきった瞳で見つめる攻撃〟やめてくれー。


 ついさっきまで鬼にしようと決めた心が、みるみるうちに浄化されてしまう!


「いや、その、ダメだとは言わないけどさぁ」


「じゃあボクをお嫁さんにしてもいいでしょ? おねがーい」


「わ、分かったよ。お嫁さんにするよー」


 ミオの青く澄んだ瞳で見つめられ、おねだりまで加わわった事で、俺はすっかり観念してしまった。


「ほんと? 約束してくれる?」


「ああ。約束もするから」


「ありがと、お兄ちゃん! 大好きだよっ」


 ミオは嬉しさのあまり、シャツの中にぬいぐるみを入れたまま抱きついてきた。


 まいったなぁ。妊娠が何かを教えるだけのつもりだったのに、あろうことか、ミオと結婚する約束までしちゃったよ。


 もっとも、ミオはその場の軽いノリで言ってるだけだと思うし、仮に本気だったとしても、ある程度時が経てば、すっかり忘れているだろう。


 まぁでも、結婚相手がミオのようなかわいいショタっ娘だったら、今すぐお嫁さんにもらってもいいかな。


 ……なんて考えが一瞬でもよぎってしまった俺は、やっぱり重度のショタコンなのかも知れない。



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