ショタっ娘と妊娠(4)

「まぁまぁ。その代わりに男には、お嫁さんと赤ちゃんを守ってあげる大事な役割があるんだよ」


「守ってあげる?」


「そう。妊娠したお嫁さんは次第にお腹が大きくなって、お家の仕事をするのが難しくなるからね」


「お腹が大きくなるの?」


「うん。赤ちゃんはお腹の中で成長するするから、だいたいこのくらいになるかな」


 と、俺は自分のお腹の上で手を使い、多少オーバー気味に放物線を描いてみせた。


「そんなに大きくなるんだ。じゃあ、立ったり座ったり、歩くのも大変だね」


「だろ? だから男は、お嫁さんの事を優しく守ってあげなくちゃいけないんだよ」


 などと、女の子を妊娠させた事もなければ、結婚すらした事のない俺が、かような講釈を垂れるのはどうかと思ったが、これも教育の一環だからと言い聞かせることにした。


「分かったよー。男の子は妊娠しないけど、お嫁さんになったら、守ってもらえるんだよねっ」


「うん、そういう事だね」


「じゃあ、ボク、お兄ちゃんのお嫁さんになる!」


「……ええっ!?」


 まさかの爆弾発言がミオの口から飛び出し、俺は激しく狼狽ろうばいしてしまった。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って。今『分かった』って言ったばっかりじゃないか。男の子は妊娠しないって――」


「それは分かったけど、ボクはお兄ちゃんのお嫁さんになりたいのー」


「な……なんで?」


 当然の疑問である。


 恋愛に臆病であるがゆえに失恋続きな非モテ野郎で、何ら取り柄のない凡人である俺のお嫁さんに、どうしてなりたいと思ったのか。


「だって、お兄ちゃんの事が大好きだから」


 ミオは、さも当然かのように即答した。


 すごく嬉しい言葉だし、俺もミオの事は大好きだが、ここは真剣に受け止めてはいけないような気がする。


 これは例えば、母親の事を大好きな息子が、「大きくなったらママと結婚する」って宣言するような、微笑ましい夢を語っているだけではないのか。


 いや、待てよ。


 以前に失恋の話をした時、俺は恋愛の形は自由なものだとミオに教えた事がある。


 その時に、男同士で恋をするのも自由だと言ったし、ミオはその言葉で自分の気持ちに自信を持って、同じ男である俺を好きになったとか?


 だとしたら大問題だぞ。


 俺とミオは、法律上は里親とその子供という親子関係であり、それ以外の何者でもない。


 何者かであってはいけないのだ。


 にもかかわらず、ミオと恋愛関係を持ったり婚姻こんいんを結ぶような事があれば、俺は里親としての資質を問われるし、〝重度のショタコン〟だという烙印を押されてしまう。


 ショタコンだと呼ばれる事にはこの際目をつぶるとして、里親が子供と特殊な関係を持つのは非常にまずい。


 せっかく俺なんかを好きになってくれたミオには申し訳無いけど、ここは心を鬼にして断るしかないだろう。


 でも、本当にそれでいいのか?

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