二人の魚料理(3)

 ――さて、残った豆アジはどうしようか?


 南蛮漬け以外で、いかなる調理方法があるのかをざっと調べてみたところ、唐揚げにするのがポピュラーだとの事。


 でも今は唐揚げ粉が手元に無いんだよなぁ。


 近くに品揃えのいいスーパーどころか、コンビニすら建っていない立地は、こういう時に不便だな。


 こうなりゃミオにお留守番してもらって、車でひとっ走り買いに行ってくるか?


 いや、その前に、ミオがどんな料理を食べたいのか希望を聞くのが先決だな。


「ミオ。残ってるアジだけど……どうやって食べたい?」


「んーとね、ボク〝け丼〟がいいな」


「漬け丼?」


「うん。昨日のテレビでやってたの。アジをタレに浸して、温かいご飯に乗せて食べるとおいしいんだって」


「へぇー、そうなのか。じゃあ残りは全部漬け丼にしちゃおっか」


「うん!」


 漬け丼なら何となく作り方は分かる。


 要は、醤油と味醂みりんを混ぜ合わせてタレを作り、煮立たせ、その中にアジを漬け込んで味を染み込ませればいいのだ。


 南蛮漬けと漬け丼で〝漬け〟がダブってしまったが、せっかくのミオのリクエストだ。


 初めて作る料理で多少の不安はあるものの、何とか満足してもらえるよう、ベストを尽くしたい。


 一般的に漬け丼を作る際は、たいてい一口サイズの切り身を用いるのだが、俺たちが釣ってきた豆アジは、そこまで切り分けなくてもいいくらい小ぶりなものばかりだ。


 かと言って何もせずに丸ごと一匹ずつ乗せると、それはそれで、食べる時に残ったゼイゴや中骨の処理に難儀なんぎする。


 漬け丼のアジは南蛮漬けとは違い、素揚げをしないので、ゼイゴや骨は柔らかくならないのだ。


 よって、豆アジであっても、まずは一匹ずつ三枚におろし、骨のある部分とゼイゴを除去する必要がある。


 ただ、さすがに豆アジ二十数匹を丁寧に三枚おろしにしていると、それこそ鮮度が落ちてしまう。


 なので今回は、ネットで紹介されている〝大名おろし〟を採用する事にした。


 大名おろしとは、大量の小魚を三枚おろしにするためのひとつの技法だ。


 通常の三枚おろしに比べて手早く作業できるのが売りなのだが、デメリットとして、捨てる中骨の方に身が多く残ってしまう。


 そんな贅沢なおろし方をするほど、ふところに余裕のある大名気取りなのか、という意味で〝大名おろし〟と呼ばれるのだという。


 豆アジをおろし終わったら、次は、身に残った皮ごとゼイゴを剥ぎ取るのだが、これは包丁いらずの手作業にて可能なので、ミオにも手伝ってもらった。


 皮を剥ぎ終わったら、今度は包丁で腹骨をすき取る作業にかかる。


 豆アジなので腹骨も小さいのだが、だからといって残したまま食べると、食感が悪くなり、せっかくのリクエストである漬け丼がおいしくなくなってしまう。


 なのでこの作業だけは、多少時間がかかる事を承知の上で丁寧にやった。


 これらの細かい下処理が終わって、ようやく、豆アジをタレに漬け込むことができるようになる。

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