二人の魚料理(4)

「ふー、何とか一段落ついたな」


「漬け丼ってすごく手間がかかるんだねー。ごめんねお兄ちゃん、ボク、勝手なおねだりをしちゃって」


「はは、謝らなくてもいいってば」


 俺は、申し訳なさそうにしているミオの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「今日はミオが頑張ってアジを釣った記念日だから、おいしいアジ料理でお祝いしなくちゃね」


「お兄ちゃん……ありがとう」


 目を潤ませたミオは俺に抱きつき、何度も頬ずりをしてくる。


 かわいいなぁ。


 このままずっと甘えさせてあげたいけど、まだひと仕事残っているから、そっちを先に終わらせてしまおう。


 まずは、漬けにしたアジを乗せるための米を炊く必要がある。


 大人用と子供用、二人分の丼ぶりに収まるくらいの米を計量して、研ぎ汁が透き通るくらいまで研ぎ、炊飯器のスイッチを入れる。


 お次は漬け丼をいろどる素材の準備だ。


 丼ぶりに乗せるのがアジだけでは色合いが地味になる。そこで、もうひと工夫加えるのだ。


 調べたレシピによると、彩りを鮮やかにするため、アジの下に、薬味として用いられる緑色の大葉を敷くらしい。


 が、あいにく我が家に大葉のストックは無い。


 なので今回は代替品として、味噌汁を作る時のために保存しておいた、カット済みのネギを使うことにした。これなら同じ緑色だ。


 他には買い置きしてあった白ごまや、刻み海苔を適量散らせば、それなりに見た目は映えるだろう。


 これで晩ご飯の下ごしらえは全て完了。後は二人で捌いた豆アジに、漬けの味がしっかり染み込むのを待つだけだ。


 晩ご飯まではまだ時間があったので、一緒に昼寝をして過ごし、そして夕刻を迎えるころ、俺たちは炊きあがりを知らせる炊飯器のメロディで目を覚ました。


「ふぁー、よく寝た」


「いっぱいお昼寝しちゃったね」


「もう六時だもんな。んじゃちょっと早いけど、晩ご飯の用意しよっか」


「うん。ご飯食べるー」


 ということで、俺たちは初めて作った豆アジの南蛮漬けと漬け丼で、アジづくしの晩ご飯をいただくことにした。


 まずは漬け丼の盛り付けにかかるべく、冷蔵庫からタレの入ったボウルを取り出す。


 タレに漬けて寝かせておいた切り身は全て茶褐色に染まっていたので、おそらく味は染み込んでいる事だろう。


 お次は二人分の丼ぶりにご飯をよそい、その上に、豆アジの切り身を満遍まんべんなく敷き詰める。


「ちょっと乗せすぎたかな……」


「うふふふ、アジでご飯が見えなくなっちゃったね」


 ミオがすごく嬉しそうで何よりだ。


 何しろ、二十匹以上の豆アジを全部漬けにしたのだ。半分こにしても十匹以上、そのボリュームたるや半端なものではない。


 後は彩りをよくするために薬味のネギや、白ごまと刻み海苔を散らして、これで一品目、豆アジの漬け丼が出来上がった。


 そして、漬け丼に先立って下ごしらえをしておいた南蛮漬けだが、こちらははしでつまむと、身がホロホロになるほど柔らかくなっていた。


 これなら間違いなく、骨ごと食べられるだろう。


 豆アジの身が崩れてしまわないよう、慎重に皿へ盛り付け、その上に南蛮酢を少しだけ回しかけする。


 二品目の南蛮漬け、一丁上がりだ。


 ついでと言っては何だが、アジ料理のお供に汁物が欲しかったので、インスタントの味噌汁も作っておいた。


 今日の我が家の晩ご飯、これにて完成。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る