同じクラスの陰キャラ女の子が超美少女だった~ありのままの自分をうまくさらけ出さない学生たちのちょっぴり甘い物語~

かのか

人にはみんな裏の顔がある

 高校に入学してもう1週間が過ぎようとしていた。

 

 ホームルームの時間などに自己紹介の時間があり、クラスのやつの顔はなんとなくだけど分かるようになってきた。

 中でも明るくて騒がしい人たち、俗にいう陽キャという人たちの名前は嫌でも頭に入ってくる。


 逆に言うと、静かな陰キャと言われる人たちの事は顔は分かっても名前が出てこない。

 

「あ、あの……秋月くん」


 6限目の授業が終わり、みんなが教室からいなくなっていくなかで前髪で目が見えないし名前も分からない女の子から声を掛けられた。


「ええっと……」


 あなたの名前は何ですか?

 なんて失礼な事は聞けないので、雰囲気で誰か分からない感をかもしだす。

 それも失礼とは思うが。


「一緒の図書委員になった姫野です」


 なんとか雰囲気を感じとってくれたのか、向こうから名乗ってくれた。

 そういえばクラス委員決める時に寝てていつの間にか図書委員にされてたんだった。


「あ……あぁ、姫野さんね。それで俺に何か用かな?」


「こ、この後、図書委員会があるから……」


 早速そんな面倒くさいイベントがあるのか。

 すごく断りたいところだけど、この姫野とかいう子を一人で行かせるわけにもいかないしな。


「わかったよ。じゃあ一緒に行こ」


 俺がそういうと姫野さんはこくりと頷いた。

 

***


「それにしても姫野さん、よく俺の名前覚えてたね」


 図書委員会とかいう厄介なイベント会場である図書室に向かってる最中に俺は姫野さんに向けてそう言った。


「ほ、ホームルームの時に覚えたから」


「そっか。でも、なんで図書委員を選んだの? 俺は寝てる間に決められたから自分の意志とは別なんだけど」


「ほ、本が好きだから……」


「そうなんだ。じゃあ今度おすすめの本教えてよ」


「う、うん」


 そんな話をしてる間に図書室についた。


 そこからは本当に面白くない委員会が続き、終わったのが1時間後だった。

 二度とこんな委員会には参加したくないと思ったね。


「じゃあ、また明日ね」


 自転車置き場で俺は姫野さんに挨拶をして早々と学校から出た。

 

 空は段々夕焼けに染まりつつある中、俺は自転車で家へと急ぐ。

 別に何か用事がある訳でもないが、退屈で無駄にも思える時間を1時間も過ごしたのがなんだかもったいない気がしたのだ。

 

 といってもそれが家に急ぐ理由にはならないと思うが、とりあえず一刻も早く家に帰って風呂に入って飯を食って、録画した今期のアニメを見たいのだ。


「ただいまー!」


 家に帰ってきただけなのに変に息切れしている。


「おかえりーおにーちゃん」


 リビングからひょこっと顔を出すエプロン姿の俺の妹、秋月 結

 いつも黒くて長い髪を後ろに束ねている。

 兄の俺が言うのも恥ずかしいが、可愛らしい顔をしている思う。


「今日は少し遅いね」


「あぁ、委員会とかいうくそみたいなものがあってな」


「え!? お兄ちゃん委員会入ったの?」


「あぁ。寝てる間に勝手に入れられたよ」


 結は驚き、手を口の前に当てる。

 

「風呂はいるわ」


「はーい! もうお湯は入ってるからいつでもはいれるよー」


「おう、サンキュー」


 結は本当に家庭的だ。

 俺とは正反対だ。


 お父さんは仕事柄世界を転々としているし、お母さんも帰りがいつも20時を回る。

 だから、夕飯や、お風呂などは俺達でこなさなければならないのだが、ほとんど結一人で回してくれてる。


 俺が手伝おうか? と聞いても好きでしてることだからって言っていつも鼻歌を口ずさみながら家事をしている。

 本当によくできた妹である。


 

 それからは風呂を済ませご飯が出来るまで2階にある自分の部屋で今期の録画したアニメを消化する。


「今期の【異世界時計物語】は当たりだなー。これは2期も期待できそうだな」


 なんて独り言をアニメを見ながらつぶやいていた。


 すると、こんこんと俺の部屋のドアから聞こえてきた。


「お兄ちゃーん! ご飯できたよー」


「おっけー!」


 見てるアニメを一時停止して1階のリビングへと向かう。


「今日はハンバーグかー」


 テーブルに並べられた料理を見て、一気に食欲がわいてくる。


「うん! お兄ちゃんこの前ハンバーグ食べたいって言ってたから」


 何気ない日常の会話を忘れずにきちっと出してくる。

 血がつながってなかったらお嫁さんにしたいくらいだ。


「結はいいお嫁さんになるな!」


 俺が笑顔でそういうと一気に結の顔が赤くなった。


「も、もう! いきなり何を言うの! さぁ早く食べよ!」


 そう言って結はエプロンを外して俺に向かい合うように座った。


「じゃ、いただきまーす」


 ハンバーグを一口サイズに切り、結特製のソースをかけて口の中へと運ぶ。


「んーうまい!」


「ありがと」


 俺の食べっぷりを見て結はそう言った。


「それでお兄ちゃんはどこの委員会にはいったの?」


「図書委員」


 俺がそういうと、結の箸がぴたっと止まった。


「お、おにいちゃんが図書委員……本なんて買ったことあるのライトノベルくらいでしょ」


「だから寝てる間に勝ってに決められたっていったじゃん」


 俺は、一秒でも早く家に帰ってアニメやらラノベを見たいのだ。

 

「ふーん。それで図書委員はお兄ちゃん一人なの?」


「いや、俺のクラスからはもう一人いるぞ」


「ふーん」


「静かな女の子だったなー」


 俺がそういうと結の箸がまたぴたっと止まった。


「お、女なの?」


「あぁ、といっても一緒に委員会行くまで名前も知らなかったけどな」


「ふ、ふーんそうなんだ」


 何故か結の持つ箸がぷるぷる震えている気がする。


「まぁしばらく委員会もないし、関わる事もないだろうな」


「そ、そうなんだー」


 

 そう、しばらくあの姫野さんとは関りがないだろうと、委員会の時に関わるくらいだろうと思っていたんだ。

 でも、そんな考えはその後打ち破れることになる。


***


 次の日の放課後。

 俺とこの1週間で仲良くなった友達3人でカラオケに行くことになった。

 偶然にも全員アニメ好きで、みんな陽というほど陽キャラでもないし、陰というほど陰でもないほどよい感じのメンバーだ。


 いつもなら早く家に帰ってアニメを見たいところだが、こいつらと遊ぶなら話は変わってくる。


「早く今期のアニメの曲歌いたいぜー」


 今日のメンバーの1人である、朝田 隼人だ。

 顔はすごくイケメンで容姿だけなら誰もが陽の人だと思うだろう。


 実際すごく明るいし、クラスの圧倒的太陽のようなグループとも絡みがあるが、主に俺達との絡みの方が多い。

 今日も、太陽グループの誘いを断ってこっちに来たらしい。

 しかも、俺達の中で一番アニメに詳しいし古参だ。


 特に好きなアニメ分野はロボットアニメ系だ。

 

「僕は、さみりんの曲縛りどこかで挟みたいですね」


 こいつはザ、普通って感じの顔の高杉 智也

 さみりんっていう声優にどはまりしていて、その声優が出てるアニメは全部見てるらしい。


 そんなアニメ好きの面子でのカラオケの為に、街中にあるカラオケへと入った。


「よーしじゃあ俺から歌うぜー!」


 部屋にはいるとすぐに朝日がデンモクを手に取り曲を入れ始める。

 

 入れた曲は今期のアニメである【異世界時計物語】のオープニング曲である。


「このアニメ面白いよなー」


 俺がそのタイトルを見てそう言った。

 

「今期1の当たりかもしれないな」


「このアニメさみりんが出てるから神アニメ確定」


 高杉の基準は俺達とは違ったが、それぞれこのアニメに対する評価は高いらしい。

 

 それから俺達はみんな交代で歌を歌っていった。

 朝日は途中からガ〇ダムの曲ばかりで、高杉はさみりんの曲ばかりだったが映像もアニメ映像とかあって俺自身も楽しめた。


 2時間ほど経った頃。

 トイレに行きたくなったので、席を外しトイレに向かう。

 

(今日は本当に来てよかったな)


 なんて事を思いながらトイレを済ませ、部屋へと戻る途中、めちゃくちゃうまい歌声が聞こえてきた。

 しかも歌ってるのは朝日が歌っていた【異世界時計物語】の曲だ。


 あまりにも上手すぎてこっそり部屋をのぞき見てしまった。

 行動はあまりにも気持ち悪いがそこは許してくれ。それくらい上手だったんだ。


 外から様子を見ると歌っているのは綺麗な女の人だった。

 俺は思わず見惚れてしまった。


 すごい綺麗な顔立ちをしていて、しかも笑顔で楽しそうに歌ってた。

 

 しばらくその子を見ていたんだが、その子と目があってしまった。

 俺は気まずくなりすぐに目線を外して部屋へと戻った。


「遅かったじゃないか。大きい方か?」


 部屋に戻ると朝日がストレートにそう聞いてい来た。

 おかげで先ほどの少し気まずい気持ちが和らいだ。


「まぁ、そんなところだ」


 それからは後1時間くらい歌って各々家へ帰った。

 家に帰る途中、いや、あの子を見てから俺はずっとあの子の歌ってる姿、そしてあの子の歌声が頭から離れなかった。


(また……会えないかな)


 そんなことを思いながら俺は眠りについた。


***


 次の日。

 学校に行くと朝日の机で朝日と高杉が話していた。

 俺も昨日の話がしたくてカバンを自分の机に向かおうとしたら、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。


「あ、秋月くん」


 姫野さんだった。


「ちょっといいかな……」


「お、おう」


 図書委員の用事かな?

 と思いながら俺は姫野さんについていった。


 連れてこられた場所は人気がない廊下の隅だった。


「どうしたの?」


 俺がそういうと姫野さんは今までよりも強い声で言った。


「昨日の事は忘れて!」


「え?」




 これが、俺と姫野さん本当の出会いだったのかもしれない


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