陰陽師学園のリトル・ウィッチ
山茶花
序章
敵だらけの入学式
「新入生--合川 総司」
「はい」
「相磯 渉」
「はい!」
「安倍 信晴」
「はい……」
ここは10歳から入ることが出来る、陰陽師を育てる学校。日之出学園。
10歳ってところに疑問を持つけど、ここにいるみんなそれぞれの小学校を転校してここに入学している。
幽霊や妖怪が見えたり、神社やお寺の家系の子供が多く集まる学校。その入学式が今日、穏やかな小春日の降り注ぐ体育館で行われた。
館内はパイプ椅子がずらりと並べられ、在校生や新入生、そしてその保護者とお偉いさんでぎっしりつまっている。
順番に名前を呼ばれて立ち上がる新入生は誇らしそうにしている者、緊張している者など、この学園に対する思いがそれぞれの顔からよく分かる。けれど――
「(みんな日本人、だよねー)」
新入生の顔、在校生の顔、先生の顔――この場にいる人たちすべての顔を見つくし、リンは内心ため息をついた。
幼い頃から魔法に憧れていた。
木の枝を振り回したり、適当な呪文を言ったりと魔法使いのマネをして幼い頃から一人で遊んでいた。それを両親はまだ子供だから、と微笑ましく見守っていた。そしてこっそり教えてくれた。実はママも魔法が使えるのよ、と――そしてその場で箒に乗って浮かんだ。
その光景が今でも脳裏に焼き付いている。
自分も大きくなったら魔法使いになる、と想いは大きくなるばかり。
そのため12歳になったら海外の魔法学校に通うつもりでいた。それは幼稚園から小学校に通ってからもずっと言い続けていた。
「将来は立派な魔法使いになるの!」
リンはきらきらと顔を輝かせながらいつものようにいう。すると両親もいつものように楽しみだね、期待しているよというが、この日は二人で顔を見合わせて困った表情をする。
「どうしたの?」
リンは何もわからず首を傾げて聞いてみる。
意を決し、父親がリンの両肩を掴んで目線を合わせる。
「あのね、リン……海外の魔法学校には、通えないんだ」
「どうして? リン、いっぱい魔法の勉強してるよ?」
なんで魔法学校に行くことが出来ないのか、分からない。
難しい本を読み、薬草の知識も少しは学び、呪文も簡単なものは覚えた。それなのに、なんで通えないのか。
「なぜならリンは――」
「――英語が喋れないだろ」
思い出しただけで大きなため息が出てしまう。隣の子に不思議な顔をされたが気にしていられない。
英語、という壁を幼かったリンは理解できず駄々をこねた。
しかしある日、母親が外国人に道を尋ねられるのを見て理解した。相手が何を言っているのかさっぱり分からない。
単語程度なら少しは知っているが、それでも言葉の壁はベルリンの壁よりぶ厚い。
英語の勉強をしておくべきだったと今更気づく。
両親もリンの海外の魔法学校に行くという言葉は子供の時だけだと思い、英語を勉強した方がいいと助言しなかった。いつかは忘れ、大きくなってからこんなことを子供の頃に言ってたよなんて懐かしい話になるものだと思っていた。
『興味・関心を持ったものを勉強すればいい』という教育方針があだとなってしまった。
そのせいで落ち込み、部屋に閉じこもった。
どうしたものかと両親は悩み、日本の魔法学校のようなところに通わせようとなった――それが日之出学園だった。
飛びついて入学してみたはいいものの、入学案内をよく読むと陰陽師を育てる学校。
リンが想像していた杖を振って魔法を使ったり箒で空を飛んだりという学校生活はガラスのようにひび割れて砕けてしまった。
陰陽師の勉強など、リンは一切していない。
それでも入学できたということは、それなりの力はあるということだ。
「八谷 鈴美」
「はい!」
「夜野 雅」
「はい」
前に座っていた髪の長い女の子が立ち上がった。
ドキリ、と胸がひときわ高く鳴る――次は私だ。
「(呼ばれたら立つだけ、呼ばれたら立つだけ――)」
心の中で何度も呪文のように繰り返し、心のバランスを保とうとする。
けれど――ともやもやとした黒い感情がお腹にわく。
もうすぐ呼ばれる、という時に嫌な想像が広がってしまう。
そしてそれは大抵、現実になることが多い。
「リノット・リン」
瞬間、ざわりと体育館が騒がしくなる。
伝統的な陰陽師学校に、外国人の名前。どういうことか。外国人が入学したのか。
そんなことを騒いでいる。在校生、保護者。
「(やっぱり、こうなるよね)」
簡単に想像できていた。けれども考えないようにしてきた。
海外の魔法学校に行けた時の想像の方が楽しかったから。嫌なことは想像したくなかった。
「静かに!」
あまりにも騒がしくなり、校長が大きく一言でたしなめる。
その後軽く咳払いをし、
「リノット・リン」
仕切りなおす。今度は誰も騒がない。
キョンシーにでもなってしまったのか、なんちゃって。
「……はい」
立った時に突き刺さる、多くの人の視線。
髪の色は何色だ、目の色は、肌の色は――つま先から足先まで、自分たちと違うところはどこか、間違い探しをされているよう。
面白いのは探している本人だけ。
まるで周りの人すべてが敵のように思えた。
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