クィーンズ・ルール
夜南 黒姫
Story 1 〈異能者〉
始まり
部屋に目覚ましの音が鳴り響く朝。
窓から眩しい日差しが、カーテンの間をすり抜けて部屋の中を照らす。ベッドで寝ていた少年はゆっくり体を起こすと開いていない目で目覚ましを探し、震えた手で止める。
目を少し擦り、少年は身体を起こすと部屋にある冷蔵庫から冷たく冷えたコーラを取り出し口へ運ぶ。
「ぷはぁ」
少年の名前は「
唇に残った僅かな水滴を腕で拭い。彼は服を着替える。
紺色の制服を羽織り、袖に腕を通す。
「れおーん!行くよ!」
「んぁ」
下に降りると同時に、玄関の開く音が聞こえる。
そこに居たのは幼馴染みで、玲音の彼女の「
「おいー、返してくれ」
「やっだよー♪、返して欲しかったらギューって、「ひょいっと」あぁ!」
玲音は汚い妄想をしている八葉に静かに近づき、手に持っているカバンを没収すると、そのまま背中に背負う。
そのまま鍵をして、玲音がつかつか歩くと後ろから「待ってー」と八葉が追ってくる。
二人の様子は、どこから見ても付き合っている年頃の少年少女にしか見えなかった。
「玲音ー、今日も弁当作ったけど食べる?」
「どうせ俺ん家で作ったんだろうが。そっから裏口開けて逃走、そして時間になったところで俺を起こしにくる・・・バレバレの手品だな」
ただ、この少年には一つだけ人とは違う所があった。
それは外見の話ではない。それとは違う・・・もっと別次元の話・・・。
「あちゃー、バレちゃった?さっすがキレっキレの名推理だね?」
「・・・別に」
その少年は・・・ある異能を持っていた。
八葉は「てへへ」と笑顔で髪の毛を指でくるくる弄る。手慣れているのか・・・癖のようにも感じる。
玲音は頭を抱えると、八葉の胸ポケットから鍵を没収するかのように取り出し、八葉へと見せる。八葉は「返してー」と言いながら子供のようにぴょんぴょん跳ねる。
―この日常が・・・いつまでも続けばいいのに―
◇
「おっはよー」
教室の扉を開け、玲音が元気よく挨拶をすると、クラス中から挨拶が返ってくる。玲音は自分の席に着くといつも通りに机に寝そべる。
「大丈夫かー?お・姫・様・?」
気づけば玲音の仲の良い連中が近くまで来ていて、玲音を馬鹿にするかのように笑いながら話しかけてくる。
玲音がゆっくり体を起こすと、友達たちに冗談を言うように返す。
「誰がだよ。もしそうだとしたらお前らは王子様か?」
そんな皮肉にも聞こえる冗談に、友達は半笑いで「まさか」と返してくる。玲音は心の中でイライラしながらも、しっかりと的確に話を返していく。
玲音が心の中でイライラしているのには理由があった―それは
『・・・髪長ぇし・・・気持ち悪』
―彼らの心が見えているからだ―
「すまん。しばらく一人にしてくれないか?」
「おう。また話そうぜ」
友達たちは玲音の元を離れると、各々の席で残りの時間を過ごす。玲音はため息をつき、再び机に頭を付けるように寝そべる。
玲音がこのような異能の力を持つのは子どもの頃からだった。人の心が見え、そして気づけば物が意のままになっていた。
◇
授業も半分終わり、玲音と八葉は屋上でお昼ご飯を一緒に食べていた。二人の距離は近く、抱きついてもおかしくないところまで来ていた。
八葉は時々玲音へとオカズを掴んだ箸を向けてくるが玲音はガン無視、他の食べ物を口へ運ぶ。
「こっちのも美味しいよ?」
そう言い、八葉が差し出したのはハンバーグだった。少し小さいサイズだが、とても美味しそうに見える。
玲音はそのまま彼女の箸に挟まれたハンバーグを食べる。八葉は「か、間接・・・!」と頬を赤らめているが、玲音が関係ないかのようにむしゃむしゃと噛んだ後、腹へ流し込む。
「ん。美味しいよ」
「ほんと?やったぁ!」
素直な感想に嬉しそうにする八葉。玲音はそれを横目で見ながら微笑む。さらに「ねぇねぇ!これは?」など八葉の攻撃が飛んでくるが素直に答える。
お昼を食べ始め数分後には、弁当は食べ終わり、八葉は玲音の膝で寝言を言いながらぐっすりと寝ていた。
玲音は持参していた小説を読みながら、彼女の髪をゆっくり撫でてやる。
さらさらとした女の子らしい髪が、玲音の手をすーっとすり抜けていく、触り心地のよい。女の子の髪の毛だ。
「んー・・・玲音ー」
「ん?俺は居るぞー」
「えへへへー」
どんな夢を見ているのか玲音には分からないが、恐らくいい夢を見ているのだろう、と玲音は考えながら本を読み続ける。
「玲音ー、いるかー?」
「んぁ?」
「なんだ八葉さんとおねんねか。悪かったか?」
この光景を同級生は勘違いをして見ている。玲音はそう感じ、八葉の枕を取り出し、ひいてやると同級生まで音速のように近づき、お・話・をしてやる。
「なんだ?」
「決して、断じて、俺は八葉とはそんな関係ではないからな?」
「そうなのか?」
「そうだよ」と、玲音は言うと同級生を帰らせ、自分は再び彼女の隣へ座る。
身体を預けて寝る姿は日向ぼっこをしてる猫のようにも見える。
玲音はそんな彼女を時間いっぱいまで眺めていた。
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