実質セックス

とらたぬ

実質セックス


 どこかのマンション。その一室。

 カーテンの隙間から陽光が射し込み、疲れた顔の青年を照らし出す。

 その身体には、本来あるはずのものがなかった。

 左手人差し指、中指、薬指。右手親指、小指。右の上腕二頭筋。左の上腕三頭筋。右耳。左目。喉仏。へそ。胃。鎖骨。睾丸。右頬。左脚。右ふくらはぎ。

 それらの部位が、彼には欠けている。全てが食い千切られたかのように破け、床に引かれたブルーシートの上には赤黒い血だまりが出来ていた。

 彼の傍には、華奢な肢体を惜しげもなく晒す少女の姿がある。

 少女は転がった青年の足元にぺたんと座り、彼の右足親指を丹念に舐めていた。

 ちろちろと舌先で関節部分を舐め、ちゅぷちゅぷと音を立てては彼の指を先から根本までしゃぶりあげる。

 そうして指がふやけ始めると、関節部分に優しく歯を立て、ゆっくりと沈めていく。

 小さくぱきり、骨を噛み折り、少女をそれを口の中で弄ぶ。青年の左頬に指を這わせ、彼に見せつけるよう、ころりころりと指を転した。少女は青年の唇に己の紅を押し当て、ずいぶんと長い舌で彼の歯列をこじ開ける。

 彼の口内へ、噛み砕き轢き潰された元親指の肉骨片をねじ込み、少女は青年を見下ろした。

 逃さぬよう再び唇を塞ぐ。少女は己の唾液で青年の口腔を満たし、無理やり嚥下させると恍惚に身をよじった。

 青年がで少女を抱き寄せる。

 いいよ、の合図だ。

 少女が目を輝かせ、青年に跨る。赤く染まった白魚のような指から、爪が鋭く伸びた。それの先端を青年の胸につぷっと刺し入れ、ゆっくりと深くまで貫いていく。

 そして少女の爪が、熱く脈打つ心の臓へと触れたとき、青年の身体がびくりと震えた。

 少女はそんな青年を見下ろし、淫乱な笑みを刻む。

 ゆっくり、ゆっくりと。少女は傷口を押し広げていった。やがて、拳ほどの大きさまで広げられた穴から、どくどくと伸縮を繰り返す肉の塊が顔を見せる。

 少女は舌舐めずりしてそれを持ち上げ、青年が見ている前で口づけをした。吸うように噛みつき、ぴゅーと噴き出る血を啜りながら、その身を襲う快楽にぶるりと震える。

 やがて少女がそれを食べ終え、眠りにつくと、五体満足の青年が彼女を抱え上げ、その身を清潔にした後ベッドに運ぶ。


 一連の行為は普通ではない彼らにとっての日常であり、実質的にはセックスだった。

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