ハスターク その15

「イヒッ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!消えた消えた消えたァ!なぁーにが『私の策はここからだ』ですか!策を完成させる前に死にやがりましたよォ!」


 ジイドは体をくの字に折りつつ空中で笑い転げていた。


「勝手に殺すんじゃないわ」

「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、ヒヒ?」

 笑い続けるジイドの後ろから、聞きなれない声が響く。ジイドが体を反転させると、そこには十四、五歳くらいの少女が浮かんでいた。


「…………はて?どちら様で?」

「…………」

「わぁちょっと待ってくださいよ!は?は?さっきのチビッ子がいきなり成長しやがったってんですかぁ!?」


 少女が無言で上級魔術をぶっ放してきたのを飛びあがって避けつつ、ジイドは叫ぶ。

「なんじゃ、ちゃんと分っておるではないか」

「いやいやいや!自分の肉体年齢を操作する魔術なんて、頭おかしいでしょうが!」

「まあでも実際お前の目の前に実例がおるぞ?」

「っ!いや、そんなことはどうでも……よくはないですが今はそれどころじゃねぇんですよ!お前を殺す!そのあとじっくりお前の身体をあんなことやこんなことに使ってやりますよ!」

「気持ち悪いわっ!」


 ベルが叫ぶのはもっともなことであるが、自分の肉体年齢を操作する魔術は失敗すれば肉体が崩壊するような代物だ。そう考えるとそれを研究したいと欲するジイドの心も納得はできるのである。

「ふん、お前をさっさとぶっ飛ばしてクロエのもとへ急がせてもらうぞ!《吼えろ!》」

「けっ、その程度なら相殺してやる!《哮れ!》」


 ベルは巨大な水球を放ち、ジイドは対抗するように火球を放つ。当然激突した瞬間に水蒸気が広がり、路地の視界が悪くなる。


「はっ、それが狙いなのは見え見えだ!《風よ!》」


 ジイドは自分の周りに風を起こし、水蒸気を払うと同時にベルが自分に近づけないようにする。しかし風の壁の向こうに立っているベルは黒い剣を構え、静かにこちらを見据えていた。


「……?なぁにを考えているのか知りませんが、そんなほっそい剣で何ができるってんですか!《貫け・ワタクシに・仇なす者に・罰を》っ!」


 ジイドがそう叫ぶと彼の周りの風が姿を変え、槍となってベルを取り囲むと一斉に襲い掛かってきた。風を剣で斬ることはできないと考えたジイドは、勝利を確信して口角をあげる。

 しかしベルは風の槍が向かってくるのを見ても顔色一つ変えず、むしろ自分から包囲に突っ込んでいくと、その手に持った剣を振るう。その剣が風の槍に食い込むと、風の槍は真っ二つに裂けてベルの背後を破壊した。


「ぅえ、は?」


 困惑するジイドをよそに、ベルはなおも剣を振るい続ける。その剣筋はしっかりとした剣術であり、誰かに教わった型を愚直になぞるようなものであったが、それゆえに強い。そのままベルは向かってくる風の槍をすべて撃ち落とすと、ピタリとその切っ先をジイドに向けた。


「な、なんなんですかその剣はぁ!魔術を斬るなんて不合理だ!」

「儂が持っていた魔術具を再現した紛い物さ」

「紛い物……?」

「この剣の実物は銘がなくてな、儂は『魔術師殺し』と呼んでいた。はは、お前が作ったあのローブとはまた違った方向性のものではあるがな」


 目を見開いて脂汗を浮かべているジイドとは対照的に、ベルはあくまでも自然体であった。ベルはそのまま片足を後ろに引き、剣を担ぐように構えた。


「う、ああああああああああああ!!!」

 恐怖に顔をひきつらせたジイドはろくに狙いも定めずに魔術を乱発する。ベルはそれらの魔術をものともせず、身体強化の魔術を自分にかけると力強く地を蹴って一直線にジイドのもとへと突進した。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「来るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ジイドは最後に特大の火球を放つが、それすらも剣は斬り裂いて――ジイドの胸を貫いた。


「ぐふっ……なるほど、その剣は魔力を吸収するわけですか……」

「ふん、腐っても魔人というわけか。生命力はあるようだな」

「フッフッフ、今ならアナタを巻き添えに殺せそうですねェ」

「その前にお前の魔力を吸収し尽くしてやるがな」

「冗談ですよ、拘束の魔術で縛られているのに何ができるというのですか……ゴホッ」

 見れば、彼の両手は鎖のようなもので縛られ動かすことができなくなっている。

「フフフ、アナタと殺しあうのはなかなか楽しかったですよ」

「私は楽しくなかったがな」

「ヒヒヒ!ああ、死ぬならもっと景色のいいところで死にたかったですねェ」

「そうか」


 ガクリ、と倒れこんできたジイドを避けるように、剣を引き抜きながらベルは後ろに下がる。倒れこんだジイドの身体は、すぐに灰になって後には何も残らなかった。


「む、やはり紛い物は紛い物か」

 それと同時に、ベルが手に持っていた剣も崩れて消えてしまった。彼女は握っていた剣の感触を思い出すように手を握ったり開いたりしたあと、そのまま手足を広げて地面に寝転がってしまった。


「あー、疲れた!やっぱ面倒くさかった!」


 そのままあー、とかうー、とかうめいていたベルは突然静かになると「クロエは大丈夫かのう…………いや、あやつなら心配ないか」とつぶやき、起き上がると光の壁が消えた道を宿に向かって歩いて行った。

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