柳胡桃は恋してた
世良世阿弥
柳胡桃は恋してた
昨日ふられた。
それだけは一言で済むのかもしれない。だが、それをいう本人にとって、どれ程苦痛な経験であるか、という話だ。
昨日泣きに泣いた。枕のカバーを引きちぎった。羽毛が飛び散って、私の周囲に降るかかる。まるでこのまんま昇天させられんじゃないかと思った。
恋をしていた男は、
普通の男だと思っていたが、中身はもはやがらんどうのような精神の持ち主だった。
私は「普通に見せかけていた」彼も、「がらんどうな本心」どちらも好きだった。
私は愛は全てを許容すると思う。きっと彼を愛していたのだから、どちらも受け入れることができたのだろう。
現在時刻、午前3時。
そんなことを考えている。
*
私は学校に行く。仕方がない。行かなければならない。失恋ごときで欠席するのも嫌だし、もし実行しようとしても、それを親に説明する状況になる可能性があるからだ。
教室に入ると、彼が目に入る。彼は相変わらず無関心に、読書していた。
それを見てすぐに、顔が熱くなる。
悔しくなって切なくなって、涙が流れる。
泣いてどうにかなることでもないのに。何も始まらないのに。無意味でしかないのに。
私は自分の席に急ぎ、そこでカバンを机の下に放って、伏せて、泣いた。
*
彼が恋した娘は、
彼女はその「傷」を隠し通しながら、学校を生きていたのだけれど――――――
彼、百瀬勝木に恋されたのが、運の尽き。
彼は何もかもに無関心な分、一度興味を持つと恐ろしいレベルで執着するのだ。
そのため彼の暴走はとんでもねぇものだった。まず下校の際尾行し住所を割り当てた。ストーカーである。
その後も彼女に対する彼のアプローチ(そう言っていいのかと思うほど激しいものではあった)は続いていった。
そして昨日彼は彼女の「真実」を知ったらしい。が、私には何も語らなかった。
私はそれをなぜかチャンスだと思ってしまった。何も語らないということは、彼が彼女にふられた、もしくは離れざるを得ない、「真実」を知ったということと、思ったのだ。
そして昨日の夕方、橋の下で私は勇気を振り絞って言った。
「私は、百瀬のこと、好き。」
小さな、問いかけるような、声で、言った。そして、彼が口を開いた。
「いや、俺は知っちゃったから。彼女の『真実』。だから、俺は彼女を愛さなくちゃあいけない。気持ちは嬉しいよ。でも、俺が彼女のために出来ることなら、やらなくちゃいけない。やり通さないと、いけない。」
そうか。彼は円ちゃんを、「愛さなければならない」というほどの「真実」を、知ってしまったんだなぁと思った。だが、私がこう冷静に考えることができるようになったのは、それから十分も後だった。
柳胡桃は恋してた 世良世阿弥 @greatnextnews
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