白く染め上げて

世良世阿弥

1(もしくは、プロローグ)

 セルベック·ヒューストイという男がいた。

 彼はアメリカが不景気の渦に巻き込まれていた一九三〇年代に生を受けた。

 彼はアイルランド系の移民の子に生まれ、差別されるかと思われていた。 

 しかしそんなことはなかった。なぜなら彼は容姿がとんでもねぇくらい良かったのだ。

 彼がそれに気づいたのは、14の時だ―――――――

 彼は早速、その美徳を試し始めた。クラスの中でも一際美人であったクロエ·ルナトンティの処女を散らした。

 彼は語った。「天国に行ったようだった―――昇天とはこのようなものなのか。」と。

 その後の彼の活躍は恐ろしいものだった。

 同級生に行き後輩に行き先輩に行き主婦に行き未亡人に行き、

 そしてつに犯罪に近い、幼女へとも行った。

 彼のスタートは、こんなものだ。


 そして、第二次世界大戦が始まった。

 彼は、空軍のパイロットとして、まぁ、それなりの戦績をあげていた。

 が、特筆すべきはここではない。彼の悪癖である。

 彼はなんということか、同じく従軍していた十名の看護婦と、寝た。

 その内の一人、セーラ·ナストンティは語った。

 「彼ったら、七キロ先で戦闘が起こってるのに、『ヘミングウェイは、『人が死ぬことがなければ、戦争ってのは最高のページェントだ――――』といったらしいけど、最高のページェントが起こってる中、最高のレクレーションをするってのは、小粋なことだと思うけどな―――』って言って、私を脱がし始めたの。状況は最悪だったけど、過ごした時間は人生で最も甘美だったわ。」

 

 そして、戦後。

 彼はフリーライターをしながら、ますます回数を増やし、テクニックをあげていった。

 この頃から、彼は官能小説を書き始めた。これが、彼が今後世にて語られている理由である。

 彼の官能小説は、娯楽を通り越して、芸術であった。

 そこまで言わしめらる美文を書くことができたのは、おそらくとんでもない数の経験人数と、同じくとんでもない数にわたるテクニックに他ならないのだろう。

 そして、彼は今現在まで語り継がれる、ポルノ史に残る名作を産み出し続けた。

 代表作、「羞恥心はフロリダに飛んでった」に始まり、幼女との行為を描いた「小さな桃は頂けない」そして時代を先取りしすぎた、百合小説「二輪の百合」などである。

 

 それから四十年程執筆活動を続けていったのだが、ある時より、作品を出すペースが急激に落ちていった。

 彼は速筆であり、一年に九、十本は作品を出していたのであったが。

 後に、その「ある時」は、晩年より三年前だと明らかになる。

 そして、彼はその頃、人生最後の創作に取り組んでいたことも明らかになった。

 自伝、タイトルは「乱華」といった。恐らく、十四の際の、初めての行為に、かけているのだろう――――――


 しかし、悲しいことに、彼は「乱華」執筆途中に、――こういったときはこう言うべきか―――殉職してしまう。

 

 セルベック⋅ヒューストイ。二〇〇〇年、誕生日と奇しくも同じ、七月二日、永眠。

 しかし、真実が近年明らかとなった。

 彼は死ぬその間際まで、女にハメていた、というとものである。

 しかし彼は、射精が、叶わなかったそうだ。

 彼らしい、悲しくも勇ましい、最後であった。


 彼の死を、ポルノ界の様々な人が悲しんだ。

 日本を代表する官能小説家、米倉忠光よねくらただみつは言った。

 「私たちは、素晴らしい奏者を失った――甘美な戦慄を、私たちに奏でてくれた偉大なる奏者を――」

 ポルノ⋅ミステリーの第一人者、桂馬金和かつらばかねかずは、

 「この世の万物は、いつか必ず消える運命にある――――――しかし、運命は時に残酷だ。あまりにも……………」

 日本を代表する作家、村上春樹は、

 「彼がなくなっただって?やれやれ。誰がヴァイオリンを弾くんだ?」

と。

 彼は亡くなった。しかし、彼が奏でた戦慄と、彼が見せた幻想は、永遠に我々の心に残るのだろう――――――――――


 

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