第2話
私は私の回りにいた、私を崇拝していた者たちの「証言」とやらを、都内のあるマンションの一室で聞かされた。どうやら私は普通には裁かれないらしい。
薬のやりすぎであちこち禿げた頭、ヨレヨレのネクタイ、あちこちに走る自傷の痕。そんな私を見て刑事が笑った。
――お前など誰も初めから崇拝などしていない、と。
私は刑事の差し出したものに体が震えるのを感じた。それはロープだった。
刑事がドアを指差している。ドアノブで首を吊れ、ということなのだろう。
そういやあの政治家も、最後はドアノブでの首吊りによる自殺だったか。
刑事は、お前が全うに裁かれたら困るのだ、と言った。普通に司法の審判にかけられたら、勘づくものもいるかもしれない、と。
私は惨めだった。AVカメラマンだった方がマシだとさえ思った。金も地位も妻も手にいれたのに、それは初めから自分のものではなかったなんて。
悪魔などと俺が口走っても、笑われるだけだった。
俺が元々狂っていたという証拠になるだけだった。
悪魔のせいで俺は狂わされた、そんなことを信じてくれる人はいなかった。
そのとき、雷に打たれたように思い出した。
俺が成功するきっかけになったあの政治家。
俺がリークした情報が週刊誌に取り上げられるや、今まで彼を持ち上げていたマスコミたちが一瞬にして手のひらを返していた。
彼はある黒幕の存在を仄めかしていたが、誰も取り合わなかった。
テレビに映る彼をバカな奴だと笑い、ガタがきていたちゃぶ台にたんまりと置かれた万札に興奮を押さえきれなかったかつての俺の役は、今は誰なのだろう。
かつての彼と、同じ道を歩かされたのだと、やっと気づいた。と同時に、俺の社会的権威の失墜によって利益を得る人間に思い当たる節があった。
コカインと書かれた袋を私は借金までして欲しがった。飢えた亡者が水を欲しがるように。
クスリの値段は瞬く間に釣り上がり、俺は結局飲んだ分のクスリ代を払えていない。
冷静に考えて俺は青ざめた。
俺が成した全財産を、一瞬で回収できる、いやそれ以上かもしれない。
俺は考えるのを、やめた。
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