15、一時の自由

 宮殿から抜け出すのは、思いの外簡単だった。俺の魔法は完璧に機能してくれたらしい。


「おぉ……この感じ、懐かしいなぁ」


 〝透明化〟と〝消音〟の魔法を解除しながら足を踏み入れた神都の街並みに、そんな事を思ってしまう。


 半月前に初めてこの神都を訪れ、満足に観光する事もなく宮殿にワープしたってのに、懐かしいって思うのはおかしいだろう。けど、そう思えたんだから仕方ない。あるいは、久しぶりの外出にテンションが上がってるだけなのか。


「さぁ、アキサマ! まずはどこに行きますか?」


 と、レイナが意気揚々と言う。俺は苦笑した。


「さっきまですげぇ渋ってたのに、いきなりノリノリだな?」

「へ? そそそそんな事、ありませんよ。ボクはただ、アキサマの為を思ってるだけです!」

「そりゃどうも」


 大声で言うな、恥ずかしい。それはさておき、俺は少し考える。


「……そうだなぁ。冒険者ギルド、かな」

「ギルド、ですか? どうしてです?」

「まぁ、俺は神都の中でそこにしか行ったことがないからな。俺を連れてきてくれた獣人がいるかもしれないし、世話になった受付のお姉さんもいる。会えるかはどうかはさておき、顔を出しておきたいって思っただけだ」


 思えば、宮殿を出る、という一点だけを考えていたので、出た後の事を考えていなかった。俺よりも数百倍神都に詳しいレイナに任せた方が良かったかもしれないけど、まぁ最初くらいは自分で決めないとな。


「それに、そうだな。レイナと初めて会った思い出の場所、って事になるわけだから、その意味でも行ってみたいよ」

「はぅぇ……お、思い出の、場所……!? アキサマはそんな風に思って下さっていたのですね。ボク……ボク、感激です!」


 がしっと俺の手を握り締めて体を寄せてくるレイナ。小さくも暖かい、女の子の手の平の温もり……なんだけど、それよりも。


「いや、レイナ。近いから! 当たってるから!」

「? 当たってるって、何がです?」

「……髪の毛だよ! その三つ編みが当たってくすぐったいの!」


 さすがにまだ、面と向かって『胸が当たってます、柔らかくて煩悩がヤバいです』なんて言えるほど仲が良くなったわけじゃない。友人とは言え、親しき仲にも何とやらだ。


「す、すみませんアキサマ! こんな髪の毛、後で燃やしちゃいますから!」

「そこはせめて切ってくれ! じゃなくて、俺はレイナのその髪型わりと好きだから切るな! 分かったな?」


「す、好き!? これは幻聴? それか誰かの陰謀……? 教えて神サマ……」

「俺がその神様だから! あぁもう、とっとと行くぞレイナ!」

「は、はい! どこまでもお供します!」


 キリがないので強引に歩き出す。レイナの小さな足音がとてとてと俺に追いついてくるのを感じながら、俺はファンタジー感満載の街並みへと突っ込むのだった。





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