第25話
カチコチと平和な音を刻む時計を見上げて微笑む。今夜夫は二人目の浮気相手から金を巻き上げているはずだ。
そう、二人目の若い疑似浮気相手。私が夫をけしかけて無理矢理作らせた浮気相手だ。一人目の製薬会社の女からももちろん金は受け取った。夫に弁護士などは使わず、非合法なやり方で相手から慰謝料を請求する策を話してみた時、最初は呆気にとられたような顔をして、徐々に暗い顔に変えていった。だが夫なりにいろいろ悩んだのだろう。浮気相手と家族を冷静に比べてみてやっと家族の大切さに気付いたのか、翌日には暗い顔をしたまま了承して、必ず金を引き出させて女との縁も切ると約束した。
そして私は浮気相手と会う日にちと、その日話した内容などを逐一報告させる義務を夫に与えた。それはこれ以上女と親しくならせないためでもあったし、夫が女に同情して自分の貯金を崩して代わりに支払うなどのズルをして私の提案から逃げだせないようにするためでもあった。
夫は思いのほか従順だった。私が作ったシナリオ通りに一人目の浮気相手に事情を話し、金を工面させるようちゃんと脅して見せた。その時浮気相手の女は悔し涙を流しながらしばらく悪態をついていたらしい。しかしどれだけ私を憎もうと、夫は私と別れる様子を見せないし、自分が今まで積み上げてきた仕事でのキャリアや交友関係を脅かされる現実に直面して、渋々夫との関係を解消すると決めたらしい。女はその日のうちに金をポンと夫に渡した。金を渡すとき、女は夫と目を合わさず言葉も交わすことなく去って行ったという。
疎ましい存在ながら、浮気相手が最後に見せた強かな潔さにニヤリと笑ってしまった。
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