第21話

 彼が何を言っているのか一瞬理解できなかったのは寝起きのせいばかりではなかった。彼の言葉を聞いて、数秒ぼんやりしてから言葉の意味を徐々に理解して血の気が引いた。


 妻


 ばれた


 慰謝料


 ばらまく


 


 自分が言われるとは思わなかった言葉を彼は申し訳なさそうな顔でゆっくり私に伝えたが、それでも頭に話が入って来なくて、重たいキーワードだけが脳の中にずしずしと入り込んできた。

 

 彼が結婚していて、奥さんと子どもがいるということは知っていたが、不倫をしているという感覚が乏しかったので独身の男の子とデートするのと変わらない感覚で彼と付き合っていた。


 理由は彼がほとんど家庭の中の話をしなかったからだ。家族に関することは深い関係になる前に職場で何気なく雑談をしていた時に少しだけ家族構成や休日の過ごし方などを聞いたくらいだった。秘密の付き合いが始まってから彼が自分の話をすることはほとんど無かった。


 だから普段から奥さんに嫉妬をすることなどはなかった。更に彼は優しかった。もしかしたら私は奥さんより愛されているのではないかと勘違いしてしまうくらい私に愛情を注いでくれていた。これからも変わりなく、まわりにばれることなくずっと付き合っていけると思っていた。それなのに急に二人の関係がこんな展開になってしまうとは思いもしなかった。


 

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